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百日草の同期  作者: 兎束作哉
第1章 再会の同期
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case05 隠し事、秘密事



「本当に、警察やめちまってたんだな。つか、明智が探偵って何か、何か……ブッ」

「おい、笑ってんじゃねえよ!ったく、何で此奴ら事務所に上げなきゃならなかったんだよ……」



 来客用のソファに座った高嶺は、事務所は行って早々堪えていた笑いが破裂したように、ゲラゲラと笑い出して腹を抱え出した。

 その様子にイラつきを覚えつつも、俺はコーヒーを二人に差し出せば、高嶺はそれを砂糖もミルクも入れずに飲み出した。甘党の俺にはまねできないと、見ているだけで苦そうなブラックコーヒーを飲み干して、高嶺は俺たちを交互に見た。

 颯佐はその間、事務所内をぐるぐると回っており落ち着きがなく、俺はため息をつくほかなかった。


 だが、それよりも……



「神津、狭いだろ」

「だって、座る席ないんだもん」



 大人一人でもそこまでスペースのないソファに無理矢理神津は腰掛け、俺は狭い思いをしていた。座る席がないといったが、少し移動させれば2脚ほどあるのにもかかわらず、彼が俺の横に座ったのは、何かの当てつけだろうか。

 俺は、神津と密着しつつ、本題に入ってさっさと帰ってもらおうと咳払いをする。



「あー、で?お前らは何しにきたんだよ」

「何って言ったじゃねえか、お前を探してたって」

「理由は?」

「理由なんていらねえだろ。警察学校時代の同期を尋ねるのはそんなにいけない事か?お前が公安とかだったら話は別だったかも知れねぇけど」



と、高嶺は頭の後ろに腕を回しながらそう口にする。全く、ここを家だとでも思っているのだろうかという態度で、本当に呆れる。


 颯佐もようやく落ち着いたのか、そろそろと帰ってきて高嶺の隣に座った。高嶺は、颯佐が座るタイミングを見計らってスッと端の方に避けた。そういう所はしっかりしているのになあと、見つつ、俺は隣で1から説明しろとでもいう神津の視線に耐えかねていた。



(つか、公安だったら……とか、ほぼ当を得ているじゃねえかよ)



 何処で知ったのか、ただたんに勘が鋭いのか。


 そういう意味で連絡を取らなかったわけではないが、数ヶ月前までは公安の方に所属していた身、秘密主義である公安になったらそりゃあ外部との連絡というかその他諸々は情報漏洩を防ぐために厳しくなる。まあ、それから解放された今でも公安にいたときのことはあまり話したくはないが。



「依頼がないなら帰れよ」

「ひっでぇ。明智ってそんな奴だったかよ」

「ああ、そうだよ。そもそも、警察学校の時からお前らには振り回されていて……」

「それで?春ちゃんと、この人達どういう関係なの?」



と、ずいっと話しに混ざって、話の腰を折って神津が俺に聞いてくる。


 その顔は何故か不機嫌そうで、眉間にシワを寄せてこちらを睨んでいるようであった。

 これじゃあ、誤魔化しようがないなと思いつつ、それでもどうにか誤魔化せないものかと頭では考えていた。



「……此奴らとは、警察学校時代の同期だよ」



 ぽつりとそう零せば、神津は「へぇ」と何処か冷めたような声で俺を見てきた。

 隠し事をされるのが神津は嫌いであり、それでいて、此奴らと仲がいいとしってきっと嫉妬しているのだろうと俺は考えた。だからといって、そこまで不機嫌になる事はないだろうと、ついつい口にしたくなる。その言葉を何とか飲み込んで俺は「そうなんだよ」とかえして高嶺と颯佐を見た。

 彼らは、俺たちのただならぬ雰囲気や関係に気づいたのか、顔を見合わせてどうにか俺と話を合わせてくれようとしていた。



「ま、まあ、ま……まあそういう所だよな。明智」



(誤魔化しが下手すぎるだろ……)



 目が完全に泳いでいて、言葉も片言で如何にも何か隠していますと言った感じの高嶺はあまりにも役に立たない。元々嘘をつけるようなタイプの男じゃないので、此奴は戦力外だと颯差に目を移す。



「てかてか、ハルハルが神津恭とお友達?だったのがびっくりしてて、オレはそれどころじゃないんだけど、ね、ね、そっちから教えてよ」



と、颯佐は狙っていないのだろうが話題をすり替えてくれた。隣の誰かと違って。


 俺は、颯佐が話題を変えてくれたためその話題に乗っかろうかと口を開いたが、それを遮るように神津が喋り出した。



「僕は、春ちゃんの幼馴染みで、恋人。それ以外に君たちに教えるような事は何もないよ」



と、突然のカミングアウトに俺は慌てて神津を止めようとしたが、時すでに遅し。


 「恋人」と神津が言ったことで、高嶺と颯佐の目はさらに丸くなり、点になった。



「おおお、おい!馬鹿!何言って……!」

「だって、本当の事じゃん。此奴らが、春ちゃん狙ってたらどうするの?なら、初めから恋人だって、僕のものだって知らしめといた方が後々楽でしょ?」

「……いや、そういう問題じゃねえし。此奴らはただの同期で」



 恥ずかしさと焦りでいっぱいになりながら、俺はどうにか神津を説得しようとするが、彼は聞く耳を持たずに、俺の頬に手を添えた。 

 そして、神津は目を細めて微笑むと、俺の顔を引き寄せる。



(いいい、いや、待て、此奴らの前でキス……とか!)



 不味い、と思いつつも目をギュッと瞑ってしまい覚悟を決めた俺だったが、「ストーップ!」という颯佐の声で、唇が当たる寸前の所で神津は颯佐の方を振返った。

 高嶺は見てはいけないと俯いていたが、颯佐は片目を手で覆いつつやめろとでも言うようにもう片方の手で俺たちを指さしていた。



「ちょちょ、ちょ、オレ達の前でいちゃつかないで!」



 颯佐は慌てたように言うと、高嶺も隣で同調するように小さく頷いていた。

 いちゃつきたいわけじゃないし、見せつけたいわけでもないと、俺は神津の胸板を押して彼を退けつつ、数回咳払いをする。



「ま、まあ、そういうわけだ」

「何がそういうわけなの!?」

「何がそういうわけなんだよ、明智!?」



 俺はそのまま流そうとしたが、どうやらまた彼らはまかれた新たな情報に食いついて身を乗り出した。




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