case13 迅速に息の合う連携
「こりゃ、一筋縄ではいかねえな」
キキィーッと、キューブレーキをかけ、間一髪の所で避けると、後ろの車を気にしながら颯佐は高速道路上にある、バス停に停車する。神津も続いて、バイクを止めるとガードレールにぶつかった車をみて、運転手は無事かと目を細めた。幸い、クッションが働いて気を失っているだけのように思えたが、その後事故が起きた道路は見るに堪えないことになっていた。
「警察は、犯人の追跡より、国民の命優先だからね。オレ達はここに残らなきゃだ。応援が来るまで待つしか無いかなあ……取り逃がすことになっちゃいそうだけど、もともと管轄がいなきもするし」
と、颯佐は車の中からそう呟いた。ハンドルにトントンと指を当てて、苛立ちを隠し切れていない様子だった。
確かに、犯人の追跡よりも目の前の命だ。だが、それは……と俺は、ギュッと唇を噛んだ。確かにそうだ、それが大切だ。だが、犯人を取り逃すのも。と俺が迷っていれば、神津がバイクにまたがりエンジンを吹かした。
「そら君、犯人は僕達が追うよ。だから、ここで待ってて」
「はあ!?神津、お前何言ってんだよ。俺達は指をくわえて待ってろってか!?」
そう神津の言葉に食いついたのは高嶺だった。彼は、先ほどまで犯人を捕まえられると思っていたために、その余裕やプライドが傷ついてその怒りを神津にぶつけているのだろう。だが、何かを察した颯佐は「いいの?」と珍しく、神津の方を向く。神津は、颯佐にだけわかるようなアイコンタクトをおくり、俺も乗るようにいった。
俺は取り敢えずバイクにまたがって、神津の腰にしがみつく。
「どうする気だ?犯人を追ったとしてもまた被害者が……」
「まあ、かも知れないけど。でも、この先渋滞じゃん。ということはだよ?」
と、神津はフッと笑った。俺はようやく神津の意図が理解でき、「ああ、そういうことか」と返してやる。
そんな俺と神津、颯佐の会話が全く理解できていないような高嶺はまた文句を言いたそうに口を開いたが、それを颯佐が「ここで、待ってよ?ミオミオ」と制止する。
高嶺は大きく舌打ちを鳴らし、ガードレールにぶつかった車をみてくるといって発炎筒を持って走って行ってしまった。まあ、理解できずとも、どうにかなる。
そんな高嶺を見送りつつ、俺と神津はバイクを再発進させる。
事故が起きたせいで、前はがら空き状態ですぐに遠くに追っていた車が見えた。だが、その先には先ほど情報が出ていたとおり渋滞の赤色が見える。犯人の車は、追っ手が来ていないかと、車線変更を繰り返し、車の影に隠れながら前へ前へと移動していき、見失いそうだった。渋滞がこの先あると言うことで、だんだんと前の車はスピードを落としていく。このままでは、追いつけない。
「春ちゃん。大丈夫。追いつこうとしなくていい」
「……分かってるけど、もしじゃなかったとしたら?」
「僕を信じて。必ず、犯人の車は―――」
そう神津が言いかけた時、パッパーと前の方でけたたましいクラクションがいたるところで鳴りだした。
それを聞いて、神津は「ほらね」と全て読んだかのように声を上げる。
その直後、俺達の横を1台の黒い車が反対方向に駆け抜けていった。所謂逆走だ。
「春ちゃん、しっかり捕まっててね。あと、舌かまないように!」
「お……ッ!」
神津がそう言ったかと思えば、ギュンっとブレーキを切って、犯人の車をにがさまいと猛スピードで追い始めた。そして、急カーブをドリフトして曲がり、前を走る車を追い越していく。俺達も逆走しているため、前の車とぶつからないかとヒヤリとしたが、そこはうまく避けてくれているようだ。
しっかりとした方向で進む車の運転手も、神津の運転テクニックには驚いたのか、目を丸くしているのが見えた。いや、逆走していることに驚いたのか。どっちでもいいが、神津も神津で颯佐に負けないほどのドライブテクニックを持っているようで、驚いた。
そうして、追っている車と迫ってくれば、また銃弾が飛んでくる。それを、神津はいとも簡単に避けて、車間距離をつめた。だが、つめすぎては今度こそ避けられないと悟ったのか、少しばかり速度を落とした。
「いいのか?」
「何が?」
「速度を落として……」
「そうだね、あの2人に花を持たせてあげなくちゃ。僕らはあくまで一般人だよ?」
と、悪戯っ子のように笑う神津をみていると何だか笑えてきてしまい「そうだな」と俺は返し、前を見た。
すると、あの白いMR-2が見え、颯佐が上手くハンドルを切り力尽くで犯人の車を止めた。凄い衝撃音とともに、追っていた黒い車は強制停車させられ、颯佐のMR-2の後方は酷く大破していた。
あれは、修理代がかかりそうだ。と、何処か白い目で俺はパトカーのサイレンの音を聞きながら思った。
「ひぐっ……うっ……オレのMR-2」
そう泣きべそかきながら、いや、完全に泣きながら大破したMR-2から出てきた颯佐は俺達の方へとよたよたと歩いてきた。かなりショックだったらしく、目が腫れている。
それでも、身を呈して犯人の車を止め、そして相棒である高嶺は上手く事故車とその道路の整備をしていたおかげもあって、誰も死なずに犯人を捕らえることが出来た。それは、誇っていいことなんじゃないかと、俺は颯佐の頭を撫でてやる。
「修理代、でるかな……」
「いや、それは分からねえけど……」
そんなことを話しながら、事件が解決したと笑い合っていると、あの車から犯人らしき人物が倒れるようにして、出てき、逃げるように走り出すのが見えた。逃げる場所なんてないのに、何処に逃げる気だと、反射的に追えば、その人物は懐から何かを取りだして、勢いよくピンらしきものを抜いた。
「春ちゃん、ダメ!離れて!」
「……ッ!」
そんな神津の声が聞えた瞬間には、目の前で真っ黒な黒煙が上がり、そうして視界が真っ赤に染まった。




