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百日草の同期  作者: 兎束作哉
第4章 百日草の同期
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case12 一筋縄ではいかない



「全くさ、一般人巻き込んでいる自覚あるの?みお君」

「わりぃ、わりぃ。まさか、神津まで来てくれると思わなくってな。さんきゅー」



 ヘルメットと高速で風を切っているのにもかかわらず、高嶺はしっかりと神津の声が聞えたようで、ゆるくひらひらと手を振っていた。今の状況と、高嶺の態度が全然マッチしていなくて、本当にマフィアを追っかけているのかと不安になる。

 まあ、彼の顔に笑みが浮かんでいるのはあの運転好きな颯佐が隣にいるからだろう。安心感しかないのは分からないでもないが。



「あっ、ハルハルじゃん。来てくれたんだ」

「お前もなあ、颯佐……」



 運転席から声が聞え、運転の最中だって言うのに、こちらを向いてニコニコとしている颯佐が見えた。こっちもこっちで、運転しているという自覚があるのかと思うぐらい緊張感がない。仮にもマフィアの車を追っているというのに。



(余裕があるのは何でだ? 確かに、この先のインターチェンジは何十㎞も先だ。だから、逃げられないと思っているのか?)



 高速道路の情報を確認すれば、この先インターチェンジもなければ工事のため一車線になっている。そのため渋滞になっているようだった。確かにこれなら逃げられそうにない。

 だが、犯人もそこまで馬鹿ではないはずだ。



「つか、今すげえかんけえねえけど、颯佐その車どうしたんだよ。レンタカーか?」



 俺がそう聞けば、颯佐は大笑いして「なわけないじゃん」と否定した。

 白いボディの2人乗りのスポーツカー。車体は低く、そのエンジン音はうるさい。見た感じ高級車だろうな……と思って、ならどうやって購入したか気になってしまったのだ。どうしても、男心をくすぐるデザインであったから。全く今関係無いのに。

 颯佐はハンドルを握りながら、誇らしげに話し始めた。



「2代目SW20型。MR-2っていうんだ。あの某有名な車の会社が出してる奴。ハルハルお察しの通りかなり値段は高いね。でも、乗るならこれ!って決めてたから、無理して買っちゃった。夢だったんだぁ。MR-2乗り回すの。勿論、色は白1択だったね。それでね、MR-2のいいところは……」

「あーわかった、わかった。その話はまた今度聞かせてくれ。お前の乗り物愛はよく分かったから」



 そう俺が、長くなりそうな説明を遮ると、颯佐は不機嫌になったものの、それ以上は喋らなかった。ただ、運転するスピードが少し上がった気がした。

 そんな会話をしていると、神津がふと何かに気づいたらしく、指差した。



「話の最中ごめんね、追っているくるまってあれ?」



と、神津が指さした先には黒い車が見えた。見る限りあれもスポーツカーのようにも見えるが、詳しくないため下手なことは言えない。



「そっ、トヨタGR86。かっけーの乗ってる!って滅茶苦茶テンション上がってる。あれにぶつかるの気が引けるんだけど。あー!でも、オレのMR-2も格好いいから!」



 1人で盛り上がっている颯佐を横目で見つつ、今は正常な判断が出来ている高嶺に聞けば「間違いねえよ」と短く答えてくれた。

 あの車にマフィアが乗っているらしく、人数は1人。何でも、取引現場を巡回中の警察官にみられ逃亡。パトカーで追ったが、上手くまかれパトカーは横転することになったのだと。そして、ちょうど近場を通っていた高嶺達に連絡が入り、追跡することになったのだとか。

 だから、高嶺はそれ以上詳しいことは知らないらしい。何処へ逃げるのかも全く予想がつかない。



「だが、この高速道路って確か海岸沿いまでいくよな。港がある……そこで待ち合わせとかしてるんじゃねえか?」

「あり得るな。まあ、逃がす気はねえけど」



 高嶺はそう言うとニヤリと笑った。

 その隣でようやく興奮が収まった颯佐も笑っている。警察官の顔ではないと俺は頬を引きつらせることしか出来ない。

 確かに、颯佐の運転技術を持ってすれば、どうにかなるかも知れない。だからこそ、犯人を追跡し追い詰めることがゲームのようでわくわくしているのだろう、この2人は。



(全く、子供だな……)



 そう思いつつも、どうして呼び寄せたのかと疑問に思った。この2人であれば、犯人の車に追いつくことも簡単だろうし、何なら俺達を呼び出す理由が分からなかった。巻き込んでまで、俺達に助けを求めた理由は……



「まあ、オレのMR-2を見せたいってのも、ドラテクを披露したいのも勿論そういう私的な理由もあるけど、ハルハルの腕が必要になるかも知れないって思って。ほら、マフィアだし、何か武器持っていたら嫌じゃん。確実に、制圧できないといけない。警察学校で学んだでしょ?」



と、颯佐は笑った。


 確かに、この2人だけではそういう面では不安がある。

 だからといって、警察を辞めて警視庁から認められた拳銃保持者だとはいえ、この拳銃はよほどのことが無い限り使いたくなかった。もう、ただの探偵だ。と、俺は自分の腕を買われているのは分かっても、乗り気にも何もなれなかった。いけないことをしているような気がしてならない。



「保険だと思ってくれていいぞ、明智。無理強いはしねえ。俺達だけで犯人を捕まえてやるから」

「なら、春ちゃんと僕を巻き込まないでよ」



 そう、神津は口を挟んだ。もっともな事だ。

 けれど、あの2人に認められ頼られるのは悪くないと思う自分もいて、俺は結局最後まで付合うことを決めた。

 高嶺の言うとおり俺は保険だ。



「じゃあ、そろそろ追いつかなきゃ。あまり離れられると、あれだからね!」



と、颯佐は思いっきりアクセルを踏んでタイヤを鳴らした。


 神津も負けじと踏み込んで、車の隙間を縫って走って行く。吹き飛ばされないか、そっちの方が心配になる。そうして、急カーブをドリフトしながら曲がると、一気にスピードを上げて追いかけていく。神津は置いて行かれないように必死に食らいついていった。

 暫く走っていると、目の前まで追っていた車が見えてきた。この調子なら追いつけるだろうと、余裕が生れたとき、窓が開きこちらに向かって何発か銃弾が発砲され、それらは、俺達の前を走っている車のタイヤに命中し、目の前で車が回転し、ガードレールに突っ込んだ。




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