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百日草の同期  作者: 兎束作哉
第4章 百日草の同期
57/62

case11 合流



「電話……マフィアって聞えた気がしたんだけど?」



 神津は、俺の言葉を無視してそう口を開いた。

 行くなとでもいうような険しい顔を見て、少し萎縮してしまう。先ほどの話を聞いているからか、俺も、深追いしたら危ないんじゃないかと、少し心臓が煩くなっていた。だが、友人に助けを求められていかないわけにもいかない。そう思ってもう一度拳を握って神津に頭を下げた。



「高嶺から助けてっていわれた。だから、いきてえ。でも、俺は車も持ってねえし、バイクもねえから。だから、神津の……恭の力を貸して欲しい」

「春ちゃん……」



 そういえば、神津は少し弱々しい口調になって、俺の名前を呼んだ。迷いのあるようなその声色を聞いて、もう一度押せばどうにかなるだろうと、邪な気持ちが芽生える。だが、緊急事態だと、神津を見つめれば、神津は、はあ……とあからさまに大きなため息をついて、頭を抑えた。きっと、俺が折れないことに気づいて、仕方ないと諦めたのだろう。

 神津も神津で譲れないものがあるし、きっと俺の事を思って言ってくれているのだろう。そういう気持ちを踏みにじるわけではないが、もし、高嶺の追っているマフィアなのか、何なのかが、高嶺にとっての宿敵であるなら。本人が気づいていなくとも、母親の無念を晴らせるのであれば、力になりたいと思った。といっても警察でない俺が何を出来るわけでも無いが。精々、袋小路にでも犯人を追い詰めることだけだろう。



「場所は?」

「手伝ってくれるのか……?」



 そう聞けば、神津はいちいち言わなきゃ駄目? と機嫌悪そうに言った。



「僕にとっても、一応みお君は大切な友達だし。春ちゃんだけいかせるわけにはいかないしね。まあでも、手伝ってくれってあっちはいったけど、完全に一般市民巻き込むことになるから、きっと上から何か言われるだろうね。僕達もいったところで何が出来るわけでも無いけれど」



と、神津は言ってくれた。確かにそうだ。


 そして、俺は場所を告げると、すぐに神津は部屋から出ていった。俺もその後を急いで追いかけた。



「で?みお君は1人で追いかけてるの?」

「いいや、多分彼奴颯佐の車に乗ってんじゃねえか?エンジン音聞えたし」

「あの2人って暇なの?」

「どーだろな」



 エレベーターに乗り込み、俺はスマホを確認する。

 情報は公にはでていないとは思いつつも、確認すれば、ニュースになっているようだった。



「『パトカー2台が横転』……マフィアの存在を公にしたくないから、そんな風にかいてあるんだろうな。日本の組織じゃねえし、また不安が広がるからな」

「そう。でも、その犯人逃げられちゃうかもね」

「大丈夫だろ。彼奴らが追ってんだぜ?そんじょそこらの、パトカーとはちげえよ」

「確かにね」



 チーン、とエレベーターが下の階につき、俺達は駐輪場へ走った。


 ネットでは波紋が広がり、パトカー2台の写真が映し出されていた。酷い横転で、フロントガラスは割れているわ、ガードレールに突っ込んでいるわで悲惨だった。救急車と消防も駆けつけているようだったし。犯人はやり手だと思う。  

 だが、何故マフィアが? という疑問ばかりが残る。

 高嶺は警察官だしそういう情報がまわってきているのだろう。だが、こういうのは公安が動く案件なのではないだろうか。引っ込んでろと言われそうだが、彼奴は1度アクセルがかかると止らなくなるタイプのため、きっと犯人をここぞと言うまで追い詰める気でいるのだろう。どれだけ危険か知らないで。


 俺は、念のためホルダーに拳銃を入れてきたが、使うときがなければ良いと思っている。



「はい、春ちゃん。ヘルメット」



 先にバイクのエンジンをかけていた神津が、ヘルメットを投げ俺はそれを受け取ると、いつもとは違うバイクに目を丸くした。



「2人乗りできるバイクって限られてるからね。あれは、個人用」

「そ、そうか」

「と言うか、春ちゃん大丈夫?乗り物酔い激しかったよね?」

「ま、まあ。気にすんな。いこうぜ」



 神津は「そう?」と疑り深い目で見てくると、自分のバイクに跨りながら、俺を見た。俺は、神津の後ろに乗り込むと、そのまま神津の腰にしがみついた。神津は、ふっと笑ってから、ゆっくりとバイクを走らせた。

 俺は、高嶺に再度連絡を入れ何処にいるか情報をもらい、地図を頼りに神津に説明した。正直振り落とされそうで、何度スマホを落としかけたか分からない。だが、神津の安全運転のおかげで何とかバランスを保っている状態だ。それでも、時々荒々しくエンジンを吹かす為、ピリピリしているのだと分かる。俺が無理いったせいで。



(それでも、付合ってくれるって事は、少なからず神津も彼奴らの事ちゃんと思ってるんだろうな)



 口先だけではなく。と、俺は神津の腰にギュッと抱きついた。断じて好きと表すわけではなく、単純に振り落とされまいとしがみついているだけだ。

 そうしているうちに、ファンファンとサイレンの音が聞え、パトカーが横転した現場近くを通り抜けていく。一体何処まで行ったのかと、高嶺の話を聞けば高速道路に乗ったらしい。犯人は何処まで逃げるつもりなのか。



「春ちゃん、スピード上げるから振り落とされないでね!」



と、神津はいったと同時にアクセルを踏み込んでETCを突っ切っていく。


 高速道路に乗れば、数多の車を追い抜かしていき、先にいるであろう高嶺達の車を探した。思えば、どんな車に乗っているか知らない。俺は、目を凝らしながら探していると、真っ白なスポーツカーを見つけた。神津はその車に車体を寄せる。すると、その車の窓が開き、見慣れた人物が顔を出した。



「おう、明智、神津。よく来てくれたな」



 そう言って笑ったのは、紛れもなく高嶺だった。



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