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百日草の同期  作者: 兎束作哉
第4章 百日草の同期
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case09 明智なりの心配



 カタカタ……タンッ!


 慣れない電子機器と向き合いながら、たまにカチカチとマウスを動かし、小指でエンターキーを押す。

 神津は、ちょっと出かけてくるといっていってしまったので、依頼が来ず暇な俺は、神津も調べようとしていた高嶺の母親を殺した犯人について調べることにした。まずは、ネットに転がっている、当時のニュースを引っ張り出してくる。電子機器にも疎いが、ネットにはもっと疎いため、無数の虚偽だらけの情報の中から正解の情報を探すのは一苦労だった。

 そうして、たどり着いた記事を開いて、先ほど神津が見せてくれたものと同じページに目を通した。先ほどはざっくりとしてしかみていなかったが、詳しくみてみると、かなり様々なことがかかれていた。



「双馬市で強盗殺人。被害者は、高嶺―――っと、何て読むんだ?まあ、読み方はあれか……家の中は荒らされており、被害者は斬殺。こりゃ酷えな」



 俺は、あまりこういった殺人事件は好きではなかったが、流石にここまで酷いと気持ち悪さを感じてしまう。ただの字の羅列なのに、被害者の状況が想像できてしまい、気分が悪くなった。

 最初に発見した高嶺の父親はどんな気持ちだっただろうか。

 ただ刺し殺されているというわけではなく、斬殺。片腕が切り落とされており、身体には刺し傷切り傷のあとが無数に。床には尋常じゃない量の血液が飛び散っていたとか。



「……一体何をしたって言うんだ?高嶺の母親は」



 ただの強盗であれば、逃げるか1カ所刺して終わりなのだろうが、明らかに悪意のある殺し方だった。殺人のために入ったのでは無いかと思うほど。強盗を目的に入って殺人を犯した。と言うよりかは、殺人を犯すために侵入し強盗殺人に見せかけたといった方が正しいだろうか。

 だが、高嶺の話を聞くには、ただの家政婦だったらしいし、恨まれるようなことはしていないだろう。



(となると、何か証拠隠滅でか……?)



 考えられなくはない。


 口封じのために殺した。別に、本人が意図して無くとも、その強盗犯人にとって都合の悪い情報を知られた、またはみられたからその口封じのため殺されたのかも知れない。犯人は焦っていたのか、情報漏洩を恐れて滅多刺しにしたのか……犯罪者の心理なんて分からないし、知りたくもない。 

 犯人は捕まっていないようだし、まだどこかにいるのかも知れない。

 高嶺の父親も、高嶺もやるせない気持ちで一杯だろう。犯人を恨んでいるのかも知れない。

 高嶺はそんな様子は一切見せなかったし、彼奴は隠せるようなタイプではないため、復讐というよりかはただたんに捕まえたいという思いで動いているのだろう。俺だったら、きっと復讐や仇討ちで頭がいっぱいになってしまうだろうけど。


 そんなことを思いながら、マウスを動かしていると、関連記事にとある海外のマフィアに関するものが出てきた。マフィアなど興味は無かったのに、その時は妙に惹かれてしまい、俺はそのページをクリックした。



「マフィアの構成員、日本国内に潜伏か……?」



 そこには、日本で海外のマフィアが麻薬売買をしているのではないかという記事が載っており、そいつらが最近日本にやってきたとかなんとか。

 拳銃の密造や密売をしている可能性もあるとか、ないとか。

 本当の所はどうなのか分からないが……



「んで?組織の名前が……」

「―――Purgatory Apostle」



 ガチャリと事務所のドアが開いたかと思えば、そこには神津がおり「ただいま」と一言。

 どうやら帰ってきたみたいだ。



「早かったな、神津」

「ただの買い出しだよ。あ、カスタードプリンあるけど食べる?」

「……早くよこせ」



 せっかち。と神津は笑いつつ、手にさげていたコンビニの袋からプリンを取り出すと蓋の上に丁寧にスプーンまで乗せて俺にくれた。

 俺は、それを受け取って、蓋を開けスプーンを差し込む。ぬんっとなめらかなプリンにスプーンは吸い込まれていき、一口分すくい上げる。

 口に運ぶと、濃厚な甘みが広がり、舌の上で溶けていった。

 うむ、美味い。これは当たりだな。

 そうして、あっという間に食べ終わると、容器の中に残ったカラメルソースをかき集めて飲み干した。「食べるの早いね」と神津に笑われてしまう。



「ほら、ついてる」

「自分でふける。やめろ」



 神津はそう言って、ティッシュで拭こうとしてきたため、手で制止する。

 俺は子供ではないのだ。こんなことでいちいち世話を焼くなと、神津を睨んだ。神津は肩をすくめつつ、向かいのソファに腰を下ろし顎に手を当てた。



「それにしても、春ちゃんも興味持つなんて」

「高嶺の事件にか?それとも、マフィアにか?」

「どっちも」



と、神津は言うと何処か不安そうな表情になった。


 またどうせ、危ないことに首を突っ込んで欲しくないという事なのだろう。一体どれだけ心配性で、過保護になれば気が済むんだ。



「つか、あのマフィアの名前、かっこつけてるよな。Purgatory Apostle……煉獄の使徒だなんてよ」



 Purgatory Apostle―――意味は、「煉獄の使徒」。


 どういう理由でつけたかは分からないが、物騒で、またかっこつけたような名前だった。どんな奴らがいるのか全く名前からでは想像がつかない。



「それにしても、お前詳しいな。まさか、会ったことでもあるのか?」



 そう俺が、冗談交じりに聞けば、神津は真面目な顔になって目を伏せた。

 そうして、ゆっくりとその若竹色の瞳を開いて口を動かす。



「あるよ、僕が海外にいたときにね」



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