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百日草の同期  作者: 兎束作哉
第4章 百日草の同期
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case05 行き先不安



「あっ……」 



 聞いてはいけないようなことを聞いた気がして、まず聞いた本人である神津は「ごめんね」と高嶺に謝った。

 高嶺本人はと言えば、「別に、気にするこったねえよ」とひらひらと手を振っており、気にしていないようだった。だが、完全に空気が悪くなったと、俺は枝豆をむいていた手を止める。ぽろりと、剥かれた枝豆は皿から落ちて机の下に転がった。



「んな、しけた面すんなよ。3人揃って。つか、空は知ってただろ?」

「……うん。でも、矢っ張り何というか」



と、その話について詳しく知っているらしい颯佐は歯切れの悪い返事をした。


 家族関係というデリケートな話題に触れることは、例え友人であってもタブーなのだろう。俺自身だって、父親の死については、あまり触れられたくないところがあるわけだし、やはり幾つになっても親という存在は大きいものだと思う。

 そう思うと、俺も颯佐も高嶺は理由は分からないが、両親のどちらかをなくしていると言うことになる。本当に理由については、尋ねることはしないが。



「いやぁ、この際だから話すが、俺の母ちゃんな、俺が中学生の時に強盗に殺されちまってよ。その犯人を捕まえたくて……進路で迷っていた姉ちゃんはすぐに警察に進路変更して、そのまま警察官になって、俺もその後を追うようにって感じだ。その強盗、捕まってねえみてえだし、かたきっつうか、何も果たせてない訳よ」



 そう高嶺はいって、自傷気味に笑った。

 中学生の時に母親を亡くした高嶺のことを考えると、こっちは全然笑えなかった。過去の話だからと、少し軽く高嶺をみていると何だか痛々しく思え、かける言葉が見つからなかった。



(親を殺した犯人を捕まえるために警察官か……)



 高嶺は、元からスポーツ万能で全国3位の実力を持った高飛びの選手だった。大学からの推薦もあれば、陸上の方からも是非うちに来て欲しいと声も多くかかっていたそうだ。だが、それをすべてけって彼は警察官を目指した。衝動的な脳筋ではあったが、身体を動かすことが好きだっただろうし、そんな事件がなければもしかしたら違う道を進んでいたのかも知れない。高嶺が、体力だけではどうにもならない警察官を目指そうと思った意思というか思いは、きっとそれらを全てなげうってでも叶えたいものだったのだろう。

 でなければ、高嶺が警察官を目指すこと何てあり得ないと思ったのだ。

 偏見ではあったが、そんな高嶺のことを思うと、やはり笑えないし、笑って済ませれるような内容ではなかった。

 それに、まだ捕まっていないというのであれば尚更。



「まあ、忙しくてそれどころじゃないんだけどな。姉ちゃんは要領がいいから、仕事の合間に聞き込みや調査を個人的に行ってるみたいで……ほんと、尊敬する」



と、高嶺は言うと残りのビールを飲み干し、店員に大ジョッキ1つと注文を入れていた。


 なんとも言えない空気にしたくせに、脳天気な奴だと呆れつつ、神津が「その、みお君の出来るお姉さんに会ってみたいな」という一言でこの話は終わりになった。

 それから、俺達は他愛もない話をして飲み会は終わった。



「結局終電のがしちゃったじゃん。最悪ー」



 会計を終えて外に出れば、冷たい風が頬に当たる。

 店の中では暑かったため、上着を脱いでいたのだが流石にもう夜になると寒い。


 結局高嶺のせいで、終電を逃し、返る術を失った俺たちは近くにあった公園のベンチで伸びていた。俺の稼ぎじゃタクシーなんて贅沢すぎるし、それならいっそ4人でタクシーに乗るなら安くすむのだろうが、酒臭い高嶺と一緒に乗るのは気が引けてしまい、どうするかと考えていれば、高嶺が近くのホテルにでも泊まれば良いんじゃね? とタクシーより、高くつくかつかないかという提案をしてきたため、俺達は顔を見合わせた。



「近くのホテルって言うと、ビジネスホテルと、格安……あーでもここ、心霊現象が起きるとか何とか書いてある。あとは……」



と、飲んでいないためかなり頭のきれている(ように思える)颯佐はタッタッとスマホを操作し、近場のホテルを探していた。酔っ払っている誰かと違って、その相棒は役に立つなあと感心する。


 だが、少し嫌な予感もして、颯佐をみてみればにぃっと悪そうな笑みを浮べた。



「この格安なら、問題ないでしょ!」



 そう言って、俺達にスマホを突きつけてきた颯佐は、画面に映ったホテルを凝視しろとでも言うように指さしてきた。俺と神津は仕方なく目が悪くなりそうなほど顔を近づければ、その画面に映っていたホテルをみて目を剥いた。



「って、ここ、ラブホじゃねえか!?お前何考えてんだ、颯佐!」



 俺は、周りの目など気にせず颯佐の胸倉を掴んで揺さぶってやれば「近いし、安いし」と連呼するばかりで、感心した俺の気持ちを返せと思った。やはり、颯佐に任せたのが間違いだった。矢っ張り、ろくな事考えねえと。



(多分、素なんだろうけど……悪意も何も感じねえし、いや、でも一瞬悪い顔したよな……マジで近いと安いしかみてないのかもだが……だが……)



 俺は、隣で何度も瞬きをしてその場に固まってしまった神津をみた。

 俺と神津は付合っているというのに、どうして、そんな提案が出来るのかと。



(はあ……頭いてえ……)



 そんな風に俺が頭を抑えていれば、ベンチで伸びていた高嶺が起き上がり俺達の方に歩いてきた。



「おぉ?行き先決まったか?」



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