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百日草の同期  作者: 兎束作哉
第4章 百日草の同期
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case04 同期居酒屋にて



「ぷっは~やっぱ、酒はうめえわ」

「ミオミオ飲み過ぎないでね。オレ、介抱したくないから」



 居酒屋の個室で、大ジョッキを片手にグビ、グビッと飲む姿に呆れた視線を送る颯佐。それを気にも留めず、神津に酌しろと言いながらビールを飲む高嶺。そんな光景を見ながら俺は、枝豆を食べていた。


 あの後、高嶺の提案により夕食をともにすることにした俺たちは、ちょうど良い個室のある居酒屋を見つけて入ることにした。


 俺も神津も電車で来ているため、終電を逃すと帰れなくなるが、それはあちらも同じようで、颯佐は時間を気にしているようだった。彼らは今捌剣市に引っ越してきて何年目かになるらしいが、今いる居酒屋から少し距離がある為、あまりのんびりはしていられないのだとか。

 まだ時計は10時であるが、高嶺は酒に強く、飲み出すと止らないためほどほどに彼を止めないといけない。豪酒であるかと言えば、そうではないのだがあまり飲めない颯佐と俺からしたらたいしたもので、絶対に飲み比べなどしたくない。そもそも、俺は飲めないのだが。



「みお君いい飲みっぷりだね」

「おうよ!神津も、飲めって」

「うーん、僕は遠慮しておくかな」



と、神津は高嶺の誘いをやんわりと断っていた。


 神津が酒に強いのは知っていたが、人前では飲もうとはしなかった。この間の合コンでも一杯しか飲んでいなかったし、俺の前であっても進んで酒を飲もうとはしなかった。理由は分からないが、俺が酒が嫌いなのを知っていて合わせてくれているのか。そうだったら申し訳ないなあと思いつつ、俺は神津の膝をつついた。



「何?春ちゃん」

「いや、飲みたかったら飲んでもいいんだぞ?俺は飲めねえけど。俺に合わせて飲まないって言うことだったら、別に……」

「そうだねえ、別に合わせているつもりはないけど。お酒って身体に悪いし」



 そういって、神津は頬をかいた。

 少し身体を神津の方に傾けているため、右手は床についてバランスを取っている。その手に神津は指を絡ませてきて、ギュッと握る。



「それに、春ちゃんと一緒に長生きしていたいから。飲まないよ。あっ、でも、春ちゃんにも長生きして欲しいからタバコはほどほどにね」



 そういって、ニコッと笑う神津を見て俺の顔が熱くなるのを感じた。

 神津の言っていることは本心何だろう。そして、彼は俺の手をさらに強く握る。離さないという意思が感じられて、参ってしまうなと俺は視線を逸らす。



(俺と一緒に長生きしてたいから、酒飲まねえって言うのか?それって、つまり――)



 実質、プロポーズじゃないかと俺は酒を飲んでいないのに顔がボンッと熱くなるような気がした。

 一緒に長生きなんて、つまり隣にいてくれるって事だよな。と1人舞い上がってしまった。そこまで深い意味は無くいったのかも知れないが、俺の脳内は都合のいいように解釈している。


 俺は、恥ずかしくて嬉しくて仕方なく、無意識のうちに神津の手を握り返していた。神津は、それに気づいてにんまりと笑みを浮べる。



「お前ら~俺らの前でいちゃつくなよ。なあ、空?」

「えー別にオレはどっちでもいいかな」



 ぐいっと酔っ払いに肩を組まれた颯佐は視線を逸らしながらどうでもいいと呟く。そんな颯佐の態度に高嶺は面白くなさそうな顔をする。

 この酔っ払いを置いて早く帰りたいと思った。まだ酔いも浅いし、抜けるなら今だと思ったが、誘われた身、勝手に抜けることも出来ないよなあと、俺は肩を落とす。別にこの後用事があるわけではないが、疲れたので休みたいというのが本音だった。やはり自宅が1番落ち着く。



「みお君、お酒強いけど親の遺伝?」



と、絡まなければいいのに、饒舌多弁になった高嶺に神津はそんな質問を投げた。


 強い。というのは皮肉なのかも知れないが、全く悪気ないように神津が聞くもんだから、俺も颯佐も目を丸くした。高嶺は、話を振られ飲んでいたビールを机の上に置くと、ぐぐっと口元を擦る。



「おぁ?あー多分、父ちゃんの遺伝。母ちゃんはあんま、飲めなかったけどな。俺の姉ちゃんも強いし-」

「は?高嶺、お前姉貴いたのかよ」



 突然のカミングアウトに俺は思わず前のめりになってしまった。

 高嶺は「んだよ」と少し睨みを利かせたが、俺はまだしも神津も初耳で興味があったため、スルーし「知らなかった」と口にすれば、高嶺は少し嫌そうに口を開いた。



「いるぜ。3つ上に1人な」

「そうなんだ。お姉さんは何してる人?」

「俺とおんなじ、警察だよ。け・い・さ・つ」



と、少し語尾強めで高嶺はいった。


 本当に初耳だったし、確かに高嶺は長子というイメージはなかった。尻に敷かれているイメージがあったというか、全く失礼な話だが。



「じゃあ、そのお姉さんを目標に警察官になろうと思ったの?」



 神津が、そう聞けば高嶺は握っていたジョッキから手を離し、空中に意味のない形を画きながら「違う」と消えるような声で呟いた。



「……母ちゃんが死んだから。その犯人捕まえたくて、警察……に、なろうと思った」




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