case02 偶然の再会
「お前ら、何でここに?」
偶然の再会に、俺は驚きつつも、何故彼らが墓地にいるのか分からなかった。まあ、誰かの墓参りだろうと言うことは予想できたが、一体どっちの誰のだろうと、少し不謹慎なようなことを考えてしまう。それに、ここは捌剣市の寺にある墓地のため、双馬市出身である彼らがここにいるのは珍しいと思ったのだ。
因みに、俺と神津の両親は2人とも生まれも育ちも捌剣市である。
「颯佐の親父の墓参りにな」
「そ、そ……くしゅんっ。うー寒い」
俺たちの疑問に答えるように高嶺は説明してくれたが、墓参りに来た本人である颯佐は寒くてそれどころじゃないようだった。俺もかなりの寒がりだが、颯佐ほどではないため、寒くて死んでしまいそうな彼を見ていると、こっちまでつられてくしゃみをしてしまいそうだった。本当に颯佐は冬になるといつもこんな感じなので、大丈夫だろうかと心配してしまう。
そんな彼の様子を見かねてか、隣にいた高嶺が背中をさすった。
「実は、オレの父さんと母さん元々は捌剣市出身で、あのヘリ場もじいちゃんがじいちゃんの友達から借り受けてそのまま使っている場所だし。オレが生れる際に双馬市の方が何かと便利だーってことで家族で引っ越したんだ。だから、オレもどっちかっていったら捌剣市の人間」
と、颯佐は寒そうにVサインをしてにへらっと笑った。
俺はその話を聞いて、颯差の父親が捌剣市の墓地に眠っていることに納得した。元々、この周辺に住んでいたのだろうと予想し、神津と顔を見合わせた。
となると、俺と神津と颯佐は両親が捌剣市の人間と言うことになる。別に、これと言ってどうと言うことではないが、少し運命を感じるというか、この犯罪街と言われている捌剣市の血が流れているのかと思うとあまりいい気はしない。
別にこの街に恨みがあるというわけではないが、不吉だと思ってしまう。毎日のように事件が起きていると思うと。
「そういや、高嶺はどうなんだよ」
「どうって、ああ、父ちゃ……父さんと母さんが何処出身かって話?」
高嶺は父ちゃん。と言いかけて言い直したようで、頬をかいてそう答えた。気にしなくていいのにと思いつつ、俺はその事には触れず首を縦に振る。
そういえば、そういう話は高嶺とも颯佐ともしなかったなあと思った。
地元の話などそこまで盛り上がらないと思ったからか。成人を迎えて、住む場所が変わってからは、少し地元愛が目覚めたというか、芽生えたというか。たまには、実家に帰っても良いんじゃないかと思うようになった。悪しからず。
「俺んところは、皆双馬市出身だな。父さんの実家は、双馬市でも捌剣でもねえ、遠くらしいが、双馬市は住みやすいんだとよ」
と、高嶺は言うと、わざとではないのだろうが、颯佐が「ミオミオだけ、仲間外れ~」といったので、高嶺は颯佐の頭を両側から握り込んだ拳でぐりぐりと攻撃していた。痛そうだと思いつつ、俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「ミオミオ!暴力反対!」
颯佐はそう涙ながらに訴えていたが、高嶺は何故か機嫌を良くしてうりうり。とさらに颯佐を虐めていた。
それにしても、俺と神津、颯佐が同じ出身地というのは何かの縁なのかもしれない。そして、颯佐の言うとおり高嶺だけが親の出身が違うと言うことも。
それでも、親が颯佐が生れる前に双馬市に引っ越したため、高嶺は颯佐と出会い、幼馴染みという関係になったのだし、人生どういう巡り合わせがあるか分からないといったものだ。
そうして、満足したのか高嶺はようやく颯佐から手を離すと俺たちの方に向き直った。
「そういや、さっきイチョウ見に行くっていってたよな。俺たちも一緒にいって良いか?」
「高嶺達もか?」
「えー冷たいこと言わないでよ、ハルハル。オレ達の仲じゃん」
と、俺に引っ付いてくる颯佐。
確かに、俺たちの仲だと言えば仲なのだが。
俺は、自分はいいが神津はどうなんだと見てみれば、神津は怒った様子もなく、何故かニコニコとしていた。いつもなら、機嫌が悪くなるのに。
(まあ、此奴のなかで何か吹っ切れたのかもな)
神津はこの間の件で、高嶺や颯佐の事を認めたのかも知れない。俺の友人であると、恋敵ではないと。神津の中の嫉妬を向ける対象から外れたのだろう。
そうして、俺たちの関係を微笑ましいといった。
(此奴らが振り回してくれたおかげで、神津は明るくもなったし)
俺はそう考えて、高嶺と颯佐を見た。彼らの赤い瞳と蒼い瞳と目が合って俺は笑った。
この2人に感謝しないとな。
そう思って、俺は神津に視線を戻した。すると、神津はまだ機嫌が良いようで口元に手を当てて笑っていた。
「そんじゃ、これ以上寒くなる前に移動すっか」
と、高嶺の掛け声と共に俺たちは歩き出した。
俺は、先を行く高嶺や颯佐、神津の背中を見送りながら、ふと立ち止まり父親の墓を見た。声が返ってくるわけでもないのに、そこに父親がいるような気がして。
俺はギュッと父親のスーツを握る。シワになってしまうと慌てて外し、もうやる必要もないのに、墓の前で敬礼した。
「もう、警察官はやめちまったけど、親父の正義感だけは受け継いでいるつもりだから。よければ、見守ってて下さい」
そう言って、俺は「春ちゃん、何してるの?」と遠くで俺の名前を呼んだ神津の元に向かって走り出した。




