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百日草の同期  作者: 兎束作哉
第3章 青春の同期
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case14 任された



「ちょ、ちょっと、ここまだ――!」



 神津の制止など耳に入っていない、入っていたとしも聞く様子など微塵もない高嶺はヘリコプターから飛び降り、そのまま犯人の真上に落下し、犯人である男の顔に跳び蹴りを食らわせた。人質に囚われていた女性の従業員はその場に倒れ、這いつくばりながら犯人から距離を取ると、警察に無事保護された。

 その間は僅か数秒といったところだろうか。



「え、ええ……」

「ざまあみろ!」



 俺の隣で、口を開けたまま未だ何が起きたのか信じられないという神津は、目の前の光景を見て固まっている。

 そんな神津とは対照的に、してやったりと、操縦席では颯佐が高笑いしていた。

 温度差が激しくて火傷しそうだと思いつつも、さすが高嶺だと頭が上がらなかった。



「ちょっと、春ちゃん、ど、どういうこと?」

「高嶺にしか出来ない芸当だな。彼奴なら、この高さでも大丈夫だろって」

「い、いいい、いや!骨折れるでしょ、普通。みお君って本当に人間?そうじゃなくても、あの犯人、死んでない?」



と、別に気にする必要もないだろうが、驚きすぎて犯人の心配までする神津に俺は笑えてきてしまった。


 確かに、普通ならこの高さから落ちればただではすまないだろう。全身打撲か、最悪死ぬだろう。だが、高嶺なら出来ると思っていた。現に、2階から飛び降りても無傷な男で、馬鹿をやって3階から飛び降りて(まあ、下がクッションだったり、最後らへんに何かに捕まったりはしていたが)いた男な為、これぐらいでは骨など折れないだろうと思っていた。元より、骨は丈夫で、趣味がパルクールという男だ。そんな柔じゃない。


 それを俺も颯佐も分かっているからこそ、頼りになるであろう高嶺に犯人逮捕にいかせたのだ。

 勿論、操縦できるのは颯佐しかいないし、近付きすぎても人質まで傷つける可能性もある。また、そんなに近くまでヘリを寄せることは出来なかった。そこは、颯佐の操縦の腕の見せ所であった。遠すぎず、近すぎず。その微妙なラインで降下し、高嶺が飛び降りても大丈夫な範囲、そして高嶺がちょうど犯人に届く距離までヘリを動かしたのだ。

 すこしでも遠ければ、人質がどうなるか分からないし、高ければ高嶺の身体が危ない。

 やはり、颯佐は凄いと思う。



「颯佐も高嶺も相変わらず凄えな。ほんと、よく連携が取れてる」

「ふふ~ん。そりゃ勿論。言葉もいらない関係だから」



と、颯佐は誇らしげにいった。


 何だか羨ましいと素直に思った。

 高嶺と颯佐は醤油を取ってと言わずとも、取り合えるほどの関係で、颯佐の言うとおり言葉などいらない関係だ。それぐらい、以心伝心していれば……俺も神津もそうなら。と少し思ってしまったのだ。


 それにしても、何故だろう。

 事件を解決しているはずなのに、どこか違和感があった。胸騒ぎがした。


 そうして、下を見てみれば、犯人はまだ確保されておらず、今度はナイフではなく、高嶺に向かって拳銃を突きつけていた。高嶺は、後ろに拳銃の存在を感じつつ両手を上げて片膝をついていた。先ほどのドロップキックを食らってもまだ意識があるのかと、犯人のしつこさと頑丈さに少しばかり感心しつつ、不味い状況なんじゃないかと思った。

 高嶺は、犯人確保より人質の安全を優先したのだろう。その結果、犯人が隠し持っていた拳銃に気づかなかったというわけだ。

 警察も、今度は高嶺が人質に取られ身動きが出来ないようだった。犯人は動くなー!と大声を張っている。



「颯佐」

「どーしよ、ハルハル。ミオミオが!」



と、颯佐は声を上げるが、どうもわざとらしく、今度は俺の番だとでも言わんばかりに俺に視線を送ってきた。ヘリを一定の距離で保ちつつ、開けっ放しの扉からは中に向かって風が吹き込んでくる。



「次は、俺だと?」

「だって、ハルハルにしか、頼めないじゃん。あ、そういえば、拳銃持ってる?俺は今身所持」



と、颯佐は俺に確認してくる。 


 まあ、一応あるが、あまり使いたくはない。というより、警察がいる前であまり使いたくはない。

 例え、警視庁から認められた拳銃所持者であってもだ。

 だが、友人のピンチとあれば、使わない理由もない。

 俺は、ため息をついた後、深く深呼吸をして、スーツの下に隠していたホルダーから拳銃を取りだした。これも、公安警察で会った、亡き父親の形見だ。



「春ちゃん、何てもの持ってるの?」

「俺は、警視庁から認められた拳銃所持者だからな。持ってても、銃刀法違反にはならねえよ」

「そ、そういう問題じゃなくて何を!?」

「なにをって、そりゃあ……」



 慌てふためく神津を横に、俺はトリガーに指をかけ、標準を合わせる。揺れる機体の中、定まらない的。集中しようにも、プロペラの音がうるさく、久しぶりに握るそれは前よりも重量があるように感じた。気のせいだろうに。



「射的の腕は、ハルハルがトップだったもんね」

「ああ、鈍ってなければな」



 そう颯佐の言葉に応えつつ、俺は犯人の持っている拳銃に向かって引き金を引いた。




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