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百日草の同期  作者: 兎束作哉
第3章 青春の同期
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case12 波瀾万丈のフライト



「ハルハル達おひさ~!」

「いや、1週間ぶりだろ。久しぶりってほどでもねえ」



 あっという間に週末が訪れ、俺と神津は待ち合わせのヘリポートに来ていた。といっても、そこは颯佐の家の所有地である為、待ち合わせというか呼び出されたというか。まあその表し方はどうでもいいのだが、颯佐は「久しぶりって挨拶みたいなもんだよ」とよく分からないことをいって、にへらっと笑っていた。その隣には、仕事着なのか、茶色のスーツに、くすんだ水色のシャツを着た高嶺がおり、仕事終わりなのかと、それとも以下から仕事なのかと疑いたくなるような格好をしていた。



「高嶺、お前その格好……」

「何だよ、明智。別に俺が何着ていたって良いだろうが」

「仕事着だろ、それ」



 そういえば、高嶺は否定するわけでもなく「ああ」と短く答えたが、その後に「言いたくはねえが」と口ごもりながらしゃべり出した。



「ここに来る途中パトが何台も出動しててな、また呼び出し喰らって家もどんの面倒だからっつうことで」



と、ひらひらと手を振った。


 それはまた、物騒で。と思いつつ、あまり考えないようにした。こういってはいけないが、日常茶飯事である。



「つか、それ言うなら明智だって同じような格好してんじゃねえか。喪服かよそれ」



 高嶺は自分の格好を突っ込まれたことを根に持っているのか、俺の服を指さして悪態をつく。


 俺は、今日も懲りずに黒スーツに身を包んでいた。

 仕事着でもあるが、日常的に着ているというか、服が無い為もあるが、黒が落ち着くっていうのもあった。勿論、父親の数少ない遺品であるこれを着ていることは、父親への敬意だったり、悼む気持ちもある。

 生前、目標にしながらもあまり喋れなかった父親にいろんな景色を見せてやりたいという気持ちも含まれているが。


 俺は高嶺に喪服と言われ、全くその通りだと一人笑っていると、高嶺は苛立ったように「何笑ってんだよ」と胸倉を掴む勢いで身体を乗り出したため、俺は両手を挙げて降参の意を示す。



「お前の言うとおりだよ。これは喪服だ。それに、これを着ていることに馴染んじまってな」

「そ、そうかよ……何か悪いこと聞いた気がする」



と、高嶺は珍しく謝った。


 そういえば、高嶺も俺の父親が俺が警察学校卒業時に死んだことを知っている為、あまり酷いことは言えないと思ったのだろう。死人には口なしだが、亡くなった人のことを悪く言うのは違う気がすると、さすがにわきまえているらしい。

 そんな風に、早々に空気を悪くしてしまったため、俺は申し訳ない気持ちで颯佐と神津を見た。楽しみにしていたこの2人に何だか悪い気がしたのだ。

 だが、2人は気にする様子はなく、颯佐はポンと手を叩いて「じゃあ、早速乗ろうよ」と、後ろで存在感を放っていた白を基調としたボディに青い線が入ったようなヘリコプターを指さした。



「あっ、勿論運転はオレで、じいちゃんの許可も取ってるから問題ナッシング~今日は貸し切りだよ」



と、颯佐は可愛らしくウインクをする。


 日曜日だというのに、貸し切りでいいのかと颯佐の家の経営の事を考えたが、颯佐が言うなら乗せてもらう身の俺たちが口出しするのは間違っている気がして、オレはお言葉に甘えて、ヘリコプターに乗せてもらうことにした。

 颯佐が先に乗り込み、その隣に高嶺。俺たちは後部座席に座ることになったのだが、1回で上手く登れず、俺が手こずっていると神津がスッと手を伸した。



「ほら、春ちゃん捕まって」

「お、おう。ありがとな」



 グッと上に引っ張られ、何とかヘリに乗り込むことが出来た。それを高嶺にちゃかされたが、俺は無視を決め込みもう一度神津に感謝をのべる。

 全員が乗り込んだところで、颯佐は操縦桿を握った。

 その瞬間、ふわっと体が浮く感覚に襲われ、思わず俺は窓の外を見てしまう。



「うお!すげえ!」



 俺は感動し、つい声に出してしまう。

 その様子を見て、神津はクスクスと笑っていたが、そんなことが気にならないぐらいに感動していた。空の上から見る景色というのは息をのむぐらい絶景で、人はおろか建物すらミニチュアに見えてしまう。ここが、大半が山に囲まれた場所にあるため、見えるのは山ばかりだったが、遠くを見れば俺たちが住んでいるマンションも見え、テンションが上がってしまう。



「ユキユキはどう?楽しんでくれてる?」

「うん、とっても」

「いや、お前ずっと明智の方見てんだろ」



と、横から口を挟まれたが、神津は颯佐の言葉にだけ反応し、高嶺の言葉には何も返さなかった。高嶺が小さく舌打ちをしたのが聞え、いつもの事かと思いつつも、高嶺も高嶺で神津の事をあまり好いていないのではないかと思ってしまった。別に今はそんなことどうでもいいが。


 それにしても、プロペラ音が凄いなと当たり前といったら当たり前の事を思ってしまい、燃料切れや、機体の不備で落ちないか縁起でもない心配をしていれば、それに気づいた颯佐が「落ちないよ、心配しないで」といってくれた。心でも読んだのかと驚いたが、よく考えれば顔に出てたかもしれないと思い、俺は苦笑いを浮かべてしまった。



「それに、この機体には最新の技術が搭載されていてね、GPSとか、レーダー、あと、何よりすごいのは自動制御機能がついているんだよ。だから、安心安全に飛ばせるってわけ」

「いや、よく分かんねえけど凄えな」

「それは、分かってないって言うんだよ。ハルハル」



 そういう颯佐はまんざらでもないといった感じに笑っていた。

 初のフライトと言うこともあって過度に心配しすぎていたと、友人を信頼していないわけではないが、何だか申し訳なく思った。それでも、颯佐は嫌な顔せずに鼻歌交じりでヘリを操縦するものだから、彼の楽観的な性格というか何事も気にしないマイペースな性格が羨ましくも思う。



「それに、オレは父さんみたいに誰かに恨まれてないし……」



 ぼそりと颯佐が何かを呟いたが、俺は聞き取れず聞き返そうとすれば、高嶺がいきなり後ろを向いて睨んできたため少し萎縮してしまった。まるで、聞くなとでも言うようなその態度に、俺は違和感を覚える。高嶺は隣にいたわけだし何を言ったか聞えているんだろうと思い、俺はそんな人殺しみたいな目で見られたら何も言えないと、隣の神津を見た。

 神津は、そんなこと気にも留める様子なく窓の外の景色を眺めていた。楽しみにしていたというだけあって、神津の顔はいつも以上に緩んでおり、彼の三つ編みが心なしか揺れているようだった。



(すげえ、気になる)



 俺は、目の前で揺れる三つ編みが気になって仕方なく手を伸ばそうとした瞬間「ああ!」と颯佐が大きな声を上げたため、肩を大きく上下に動かし、その場で固まってしまった。



「な、何だよ、颯佐。大きな声出して」

「い、いやあ……あー、面倒くさいことになったなあと思って」



と、颯佐は本気で面倒な事になったと言わんばかりに、下を見るよう俺たちを促した。


 一体何があるのかと思えば、先ほど俺たちがいたヘリポート近くにパトカーが何台か入ってくるのが見え、先頭を走っていた、否追われていた車から2人の人間が出てきた。



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