case09 完全ギブアップ
「むさ苦しすぎるだろ。誰が楽しくて、男4人でサウナなんて入ってんだよ」
「あつぅ~ミオミオもう、でよう?」
ぐでぇと、敷かれた厚いタオルの上で倒れている颯佐を見つつ、俺は動く気力も口を動かす気力もなく、ただただ時間が過ぎるのを待っていた。何というか、出たい。と言ったら負けな気がしてどうも、それを口に出来なかった。
隣の神津と、颯佐の隣の高嶺と言えば汗はかいているもののまだ余裕といった感じで、涼しげなかおをしていた。
高嶺の提案で捌剣市の温泉に行くことになったのだが、高嶺がサウナで我慢比べをしようなどいったため、売り言葉に買い言葉、売られた喧嘩は買うしかないと思い勢いのまま勝ってしまった結果がこれだ。
正直、暑いのは苦手だった。寒いのはさらに苦手だが。
「あ~あちぃ」
「およおよ~?明智、ギブアップか?」
「ッチ……まだいける」
「春ちゃん無理しちゃダメだよ」
高嶺の言葉に煽られて、俺は勝負の続行を示すが、高嶺の膝の上で唸っている颯佐を見ているとああなりたくないし、と言うか颯佐を外に出した方がいいのではないかと思ってしまった。それでも、俺から言い出したら負けな気がして、口に出来ない。
颯佐は高嶺の腰に巻かれているタオルを握りしめながら、顔を真っ赤にして母音ばかりの言葉を口にしている。
(つか……マジで、目に毒)
暑さで回らない頭でちらりと神津を見てみれば、その体つきの良さにキュンと身体が締るような思いになる。
顔は、イケメンだがまだ儚さが残る美人寄りの作りをしている神津だが、腹筋は割れているし、筋肉もついているしで、あの体力運動神経お化けの高嶺と比べても大差ないぐらいの体つきをしていた。ピアノを弾いていただけだよなと、疑いたくなるほど男らしい体つきを見て、俺は思わず見惚れてしまう。
そんな男に1度抱かれたのかと思うと、やはり身体がいい意味で震えてしまうのだ。あの時は、必死で身体なんてじっくり見る余裕はなかったが(今も尚、直視は出来ないが)、こうして見てみると、矢っ張り格好いいなと思う。
そして、いつもはたらりと垂れ下げている三つ編みを団子にし、前髪を掻き上げる様子が兎に角裸体は艶めかしく、目に毒だったのだ。
すると、俺が見ていることに気づいたのか、神津はこちらを向いて首を傾げた。
俺は慌てて視線を逸らすと、神津はクスリと笑った。
「んだよ。笑って」
「え~春ちゃんが、僕に熱い視線を送ってたから」
「自惚れんなよ」
「ふふ。冗談だってばぁ。そんな怖いかおしないでよ」
そう言って、俺の頭を撫でてくる神津の手はじっとりと濡れていて、熱かった。
サウナに入っているしなあ、と思いつつ汗だくな俺の髪をそんな綺麗な手で撫でなくてもいいと、俺は彼の手を払った。
「ねぇ、春ちゃん」
「あ?」
「春ちゃんも熱かったら、そら君みたいに倒れてきてもいいんだよ?何なら、膝の上に頭乗せても、僕怒らないし、寧ろ大歓迎」
と、にんまりと神津は笑う。
俺は、神津の言葉を聞いた後、隣で伸びている颯佐を見てから、もう一度神津の方に視線を戻した。
さすがにあそこまで大胆にくっつけない。
高嶺と颯佐はただの親友同士であって、ああいうことが平気で出来るのかも知れないが、俺と神津は恋人同士で、そんな恋人同士がするような膝枕など恥ずかしくて出来ない。俺の羞恥心が爆発する。
(そもそも、俺たち今倦怠期とかそういう奴で……)
それでも、神津から誘ってくれた……というか、いいよ? といってくれたこともあって、このまま流されてしまえば、少しは距離を縮められるのではないかと思い、俺は固唾をのんだ。暑さのせいで、正常な判断が出来ていないのだろう。
「かん、考え、ておく……まだ、大丈夫だし。ダメになったら……その時は、よろしく、するかも」
そう言えば、神津は嬉しそうなかおをして、俺に抱きついてきた。
「ちょ!お前、熱い!」
「だって、春ちゃんが可愛いこと言うんだもん。逆に春ちゃんが僕に膝枕してくれたっていいんだよ!してえ!」
と、駄々を捏ねる子供のようにぎゅうっと抱きしめて来る。
暑いし熱いし苦しいし、でもどこか心地よく感じるのは、きっと相手が神津だからだ。こんな風に甘えて来て、俺の事大好きで、格好いい俺の恋人で……
「おい、あちいよ!いちゃつくなら、他でやってくれ。さすがに、その熱は耐えられねえ」
と、空気を読まない高嶺が叫んだ。
颯佐はその間もうぅーん、うぅう……と唸っていたし、そろそろ出た方がいいんじゃないかと思った。俺も、限界に近いし。
「みお君、そろそろ出ない?そら君、のび切っちゃってるから、水飲ませてあげないと、不味いって」
神津が、高嶺にいってくれたおかげで、高嶺は改めて自分の膝の上で唸っている颯佐に視線を落とし、汗でべったりな髪をかくと、「しゃーねーな」と立ち上がった。ゴトン……と勢いよく立ち上がったため、颯佐の頭は座っていたところに直撃し、さらに目を回していた。そんな颯佐を「根性ねえな」と言いつつ、高嶺は介抱しサウナ室を出て行く。
「春ちゃん、僕達も出よう?」
先に立ち上がった神津が俺に手を差し伸べてくれ、俺はそれを掴むと立ち上がろうとしたが、足下がふらつき、そのまま神津の胸に飛び込む形で倒れ込んだ。
「はる、春ちゃん。大丈夫?」
「お、おう。悪いな……ちょっと、目眩……が」
「春ちゃん!?春ちゃんッ!」
神津のたくましい胸に顔を埋めながら、俺はゆっくりと深呼吸をしようとしたが、上手く吸えず、暑さで限界がきて、目を回しながら、意識を飛ばした。




