case03 こっちにもダメージが
颯佐の爆弾発言に、言われた本人ではない俺の方がダメージを受けていた。
俺は友人が少ないし、言ってしまえば目の前の2人、高嶺と颯佐しか友人と言える存在はいない。
学生時代に作ってこなかったのかと言えば、自分の頭の中でパッと浮かぶ同級生もおらず、趣味もなかった俺は少し浮いていたのかも知れない。ただ、頭がいい。ということで、同級生からはよく学習会に誘われたり、勉強を教えてくれとせがまれたものだ。だから、孤立していたというよりかは、何もしなくても人がよってきたという方が正しいだろう。だが、頻繁に俺に声をかけてくる同級生はなかった。
警察になるのに少し集団行動が苦手だったのだ。
そんなことを考えていると、再び颯佐が口を開く。
「ユキユキ、実は友達少ないんじゃない?」
と、神津の出を伺うように颯佐が尋ねるので、俺はそんなことはないだろうと、神津の方を見てやる。神津が友人が少ないわけがない。こんなにコミュニケーション能力が高くて、女性にモテて、ピアノも弾けて、6カ国語も喋れるなら、海外にも友人の1人や2人いるだろうと思った。
だが、俺の期待とは違い、神津はポカンと口を開けていた。
まるで図星とでも言わんばかりに。
「か、神津……?」
「だって、ユキユキ友達のありがたみ、分かってないような気がするんだもん。何か、オレ達のこと目の敵にするし?オレ達がハルハルを奪うんじゃないかーって恋敵みたいな風に見るし。オレ達が友達だってちゃんと割り切れるなら、そんなことしないんじゃないかなあって。まあ、これはオレの考えだけど」
そう颯佐は言うと、ねーと高嶺の方を見た。高嶺は全力で頭を縦に振り、肯定の意を示していた。
颯佐の言いたいことはとてもよく分かる。確かに、神津は高嶺と颯佐を恋敵……とは行かずとも嫉妬をバリバリ飛ばしていたし、俺が彼らに会うのを無性に嫌がっていた。友人に会うだけでそこまでカリカリするだろうかと彼の異常なまでの過保護感というか心配性というか、そういうのは感じていた。まあ、友人と会うより恋人の自分と一緒にいて欲しいって言うのも、そっちも分からないでもない。
ただ、たまにぐらい友人に会わせてくれてもいいじゃないかとも思う。
「そう、思うでしょ?ハルハル」
「いや、俺はどうだろ……」
「明智も友達少ないだろうからなーお前ら、2人だけの世界に閉じこもって楽しいのかよ」
と、高嶺が横から口を挟んだ。
友人を作らず、2人だけの世界に閉じこもっている。高嶺の言い方は少しあれな気がしたが、もしかすると神津の方はそうなのかも知れない。
神津には俺しかいない。
そう考えたら何だか嬉しい気もするが、神津にはもっと違う世界を見て欲しいとも思っている。完全に矛盾しているし、そのまま外の世界を見て俺から離れていくのは耐えられない。けれど、何となくだが神津はいろんなものを我慢して生きてきたようにも思えるし、そう思うと、友人を作って恋人とはまた違う、戯れや馬鹿をやってもいいような気がした。
俺は、少なからずこの2人に出会ってそれができた気がした。自分の世界に閉じこもっているだけでは見えてこなかったもの。それを、この2人に教えてもらったのだ。
「僕は……」
神津は言葉をつまらせ、助けを求めるように俺を見た。
何だか、置いてけぼりを喰らった子供のような寂し目を見ていると、俺は無性に彼の頭を撫でたくなった。そうして、無意識のうちに撫でて俺は神津と向き合う。
「此奴らの言うこと、理解できるだろ?俺は、此奴らに出会って変わったんだ。まあ、未だに真面目って言われるが此奴らと少し遅めの青春が出来て、楽しかった」
「春ちゃん」
「お前はどうなんだ?そういうこと、してこなかったのか?」
そう聞けば、神津は唇をギュッと噛んで首を縦に1度だけ振った。
「して、こなかったよ……友達、いないかも」
と、神津は弱々しく言った。
神津でも苦手なものがあるのかと驚いたと同時に、なら今からでも遅くないんじゃないかと思った。
大人になっても青春は出来る気がする。言葉はあっていないかも知れないが。
そう思って、2人の方を見れば彼らはニヤリと笑って「そういうことであれば」と俺と神津の方に駆け寄ってきた。
「ユキユキも、青春しようよ。連れて行きたい場所あるし、いいもの一杯あるんだよ」
「ちょーと気にくわねえが、明智の恋人だ。悪いようにはしねえよ」
そう2人は、神津に向かって言った。
神津は戸惑いながらも、嬉しそうに頬を緩めて「僕が?いいの?」と、確認するかのように尋ねた。
そんな神津の手を颯佐は掴むと、ニッと白い歯を見せて笑った。
「もっちろん。楽しいこと、今からでも遅くないよ」
と、神津の手をギュッと掴む。
少しもやっとしたが、颯佐の笑顔と、神津の嬉しそうな顔を見たらそんな気持ちも吹き飛んでしまった。
矢っ張り、此奴らにはかなわないなあと思う。
「つか、マジでお前ら非番なのか?暇なのか?」
「まあまあ、ハルハル。そこは気にしないで、今はユキユキ遅めの青春大作戦を遂行しなきゃ」
颯佐はそう、誤魔化すように言って高嶺の方を見た。高嶺は少し遅れて「お、おう」と返事をして拳を握る。
そんな2人を見て、呆れながら笑えば、隣で神津がプッと吹き出した。
「3人とも可笑しいなあ」
そういった神津の顔には温かい笑顔が浮かんでいた。




