case02 友人の爆弾発言
「か、神津何でお前が、ここに?」
「春ちゃん僕に隠れて密会って、良くないと思うなあ」
ぷらーんとつり下げられている颯佐を心配しつつ、開いた口が塞がらないで神津を見ていれば、ふんっと怒ったように鼻を鳴らしていた。
「く”る”し”い”っ……下ろして、ユキユキ」
と、いよいよ顔が青くなってきた颯佐は神津に助けを求める。神津は、思い出したかのように颯佐を乱暴に下ろして、俺の方を見た。
一体どうやってここまでたどり着いたのか。
そう不思議に思っていれば、神津はズボンのポケットからスマホを取り出した。
「おい、お前の束縛彼氏絶対ヤバいだろ。GPSでもつけられてんじゃね?」
「なわけねぇだろ。さすがの神津でもそこまでしないと思う……多分」
言い切れないのが悔しいが。
高嶺がコソッと俺に耳打ちするので、その可能性も考えられなくはないと納得してしまう自分がいた。神津ならやりかねない。ただ、俺のスマホは指紋でロックを解除するものになっているため、そう簡単にそんなものなどいれられないと思う。ただ、デジタルに疎いせいもあって、もしかしたら俺の知らない抜け道で、俺のスマホにGPSを埋め込んでいるのかも知れない。まあ、どうでもいい。
少し身震いしつつ、俺は神津に取り敢えず謝っておかねばと思った。
「わ、悪い、神津。ちょっと呼び出されてて」
「びっくりしたよ。朝いきなり出かけていってさ。寝室戻ったら、春ちゃんいないし、トイレかなーって思ってたのに、帰ってこないし。それで、追いかけてきてみれば、みお君と」
と、神津は不満ありげに口を尖らせた。
そういえば、家の中で偶然にも神津と出会わなかったなあと思った。神津こそ何処かに行っていたのではないかと、本当にすれ違わなかったのだ。そのおかげもあって、こうやって抜け出してこれたというのに、結局は捕まってしまった。
多分、その道中で神津は颯佐を見つけたんだろう。
「まあ、半信半疑だったけど。でも、そら君を見つけて尋問……話を聞いていたら、みお君達と会う約束をしてたって分かって、すっ飛んで来ちゃった」
「なあ、やっぱヤベえってお前の彼氏。今、尋問つったぞ!?」
「そうか、神津」
「なあ、俺の話し無視かよ!?」
隣で、ひーひー言っている高嶺を無視し、自分の推理はあっていたのだと神津を見てやれば、何処か傷ついたようなかおをしていて、胸がギュッと掴まれるような感覚になった。
悪いことはしていないはずだ。
それでも、高嶺の言ったとおり束縛彼氏でこうして同期と会うことも許されないのかと。それはちょっと違うような気がした。
「俺は、同期と……友人と会っちゃいけないって言うのか?」
そう聞けば、神津は、はあ……と大きなため息をついて頭がいたとでも言うように額をおさえた。
「そこまで言ってないよ。でも、何も言わずに出て行くのはやめて、捨てられたんじゃないかって不安になっちゃう」
と、神津は零した。
彼の若竹色の瞳に不安の色が見え隠れしている。
そんなことあるはずがないのに。
俺は、神津の手を握って安心させるように声をかける。神津は驚いた顔をしていたが、すぐに微笑んでくれた。安堵したような表情を見て、俺もほっと胸をなで下ろした。
俺だって不安だ。
神津が俺以外に興味を持って、何処かに行ってしまうのではないかと。不安で眠れない。いいや、あの空白の10年間それを考えない日はなかった。ずっとずっと、不安で、声が聞きたくて、会いたくて仕方がなかった。それを神津は知らないだろうけど。
「わ~いちゃついてるよ。ゲロ甘~」
「リア充爆発しろや」
と、外野があまりにも煩く、少しは黙っていられないのかと振向いてやれば、2人は舌を出して煽るようなポーズでこちらを見ている。
ムカつくが、どうやらそう口にしつつも、誤解も解け、俺達の仲直りを祝ってくれていることに変わりないので、今日だけは許してやることにする。
ただ、次はない。
そんな風に、2人を見てやれば、神津がまだ怒りを隠し切れていないような声色で、尋ねた。
「それで、何で春ちゃんを呼び出したの?」
神津がそう尋ねれば、2人は驚いたように互いに顔を見合わせた後、神津を見た。
何がそんなに不思議なのかと言うぐらい、2人は目を丸くしていた。神津もそれが理解できないようで、ピクリと眉を動かす。
「ねえ、もしかしてユキユキ……ハルハルと同じで友達少ない?」
そんな爆弾発言に、俺も神津も固まってしまった。




