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百日草の同期  作者: 兎束作哉
第2章 赤と青の同期
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case15 卒業後の未来に思いを馳せて



 警察学校での10ヶ月が過ぎいよいよ卒業の日が迫っていた。


 警察学校では厳しい訓練を受け、刑法やら警察官としての心得をたたき込んだ。もう2度とやりたくないような訓練もあったし、筋肉痛に何日も悩まされたこともあった。それでも、体育祭や学祭、実際に1週間先輩に教わりながら交番に立って勤務する実務修習もあり、それなりに漫喫は出来たと思う。

 辛い思いでばかりじゃなく、楽しい思い出だって幾つもあった。

 そんな警察学校を離れるときがき、教官や同期との別れを惜しむものや、これから第一線に出て仕事をする未来に期待するものなど様々だった。

 配属先の希望は聞かれるが、まず希望したところにはいけないといったほうがいい。それに、別に何処になろうが最善を尽くすだけだ。



「なあ、空、明智。お前ら何処に行きたい?」



と、何だか気のないように口を開いた高嶺に俺と颯佐は手を止めて顔を見合わせた。


 高嶺からそんな話を振られるとは思っておらず、俺も颯佐も苦笑した。それを見て、「何笑ってんだよ」と高嶺に突っ込まれたが、俺たちは椅子に座り直し高嶺と向き合った。



「ミオミオ珍しい。それってこれからの未来について?」

「そうだよ、配属先は希望通りいかなくてもスカウトだったり、色々あるだろ」



 そういえば、この前も同じような話をしていた気がした。

 高嶺はどうなんだよ。ともう一度言うと、俺の方を見た。颯佐の方はわかりきっているというか、きっと変わっていないため聞かないのだろう。だが、颯佐は「はいはい!」と手を挙げて口を開く。



「オレは、警察航空隊のパイロット!」

「まあ、空はだろうな……」

「颯佐ならなれるだろ。免許持ってるのもつええし」



 俺と高嶺はだよな。と縦に首を振る。

 颯佐の希望はすぐに叶いそうだと思った。



「そういう、高嶺はどうなんだよ」



と、俺は取り敢えず自分の希望先については何か言われそうなため、高嶺に話を戻してやった。


 高嶺は、俺の考えを察したのか少し不満気味に頬杖をつき、ニヤリと口角を上げた。



「そりゃあ、勿論、刑事部……そこの捜査第一課強行犯捜査係狙いだ」

「刑事な、お前向いてそうだな。で、理由は?」

「格好いいからに決まってんだろう!」



 高嶺は胸を張って答えた。

 そう答えると何となくわかっていたものの、その自信満々の顔を見て、俺は呆れたように溜息をつく。すると、颯佐は腹を抱え笑い出した。


 高嶺らしいといえば、高嶺らしい。

 確かに彼は刑事という感じだし、その有り余る体力をフルに活用できる部署と言えばそこしかないだろう。頭がいい方ではないから、そこは心配ではあるが。



「なっ!良いだろ!?」

「ああ、良いんじゃねえか?高嶺らしい」

「おい、何で疑問形なんだ」

「いや、なれるかとおもって……」



 そう俺が言えば、「何だと!」と俺の胸倉を掴んで揺さぶった。本気で怒っているのか、巫山戯て怒っているのかよく分からないが、こうやって高嶺に絡まれるのもあと数日しかないと思うと何だか名残惜しい。

 この寮ともおさらばで、きっと3人ともバラバラになるだろう。そもそも、俺たち3人はとくにこの2人のせいで教官から目をつけられていたため、ばらけさせないと先輩に迷惑がかかるに違いない。まあ、そういうこともあってきっとバラバラになるだろうと、別れの準備をしていた。

 バラバラになったとしても、ここで過ごした日々も思い出も消えるわけではない。



「そんで?明智、お前がトリだぞ。何処に行きたいんだよ」

「俺か?俺は……」



 そういえば、その話をしていたと我に返れば、俺の希望先なんて一つしかなかった。



「――――公安部」

「公安?」



 高嶺は俺の言葉を聞き返し、少し真面目な顔になった。普段もそうしていれば、少しは知的に見えるのにと失礼なことを思いつつ、胸倉を掴んでいた彼の手を俺は払った。

 元々、俺は公安を目指していた。本来であれば、大学まで行ってキャリア組として警察学校に入っても良かったのだが、本音を言うと大学を薦めすぎてくる教師や同級生にイラけがさして、高卒で警察学校に入ったのだ。

 それに、どっちにしろ警察官になるつもりだったため、それが早いか4年後かの話だった。


 何事も近道などない。結局は地道な努力と根性が必要だ。そして、それを積み上げていくこと、努力し続けることが大事なのだ。


 父親が公安警察である為、勿論俺はそこを目指している。目標にはまだまだ届きそうにないし、もしかしたら一生届かないかも知れないが。俺の目指した背中が見える1本道を見つけたためそこをひたすらに走るしかない。


 そんなことを思いながら、俺は颯佐と高嶺の顔を交互に見た。高嶺は俺の希望を聞いて、少し驚いているようだったがすぐにいつもの顔に戻った。



「明智ならなれるだろうな」

「確かに、ハルハルならなれると思う」



と、2人ともからかう様子もなく、温かい言葉と笑顔を向けてくれた。


 颯佐は、高嶺の肩に手を置いて俺に向かって親指を立てた。



「まあ、配属先は取り敢えずばらけるとして、また3人で集まろうな」

「ミオミオ仕切るの珍しい~」

「いいだろ、たまには。明智にばっかいい顔させられねえし」

「いや、お前らが自由すぎるだけだろいつも……」



 颯佐は高嶺に突っ込みを入れると、俺たちは笑った。



「二十歳になったら酒飲みにいこうぜ。俺強い自信あるからな」

「え~ジュースがいい」

「俺も、颯佐に同感だ。甘い飲み物がいい」



 そう返してやれば「おいおい、マジかよ」とまだ二十歳になっていないくせに酒が飲みたい、飲みに行きたいと煩い高嶺に俺と颯佐は冷ややかな目を向けた。

 確かに、3人で飲みに行くのは楽しそうだが、多分俺は強くないだろう。

 そんなことを思いつつ、チャイムが鳴り夕食の時間になったため俺たちは部屋を出ることにした。



 そして、この数日後卒業式が行われ予想通り、俺たちは3人ともバラバラの配属先に飛ばされることとなった。

 また会おうと約束をし、警察学校を離れていく。



 だが、俺はその後3年ほど彼らと連絡を取らず、希望の公安になれたその年に辞職を出した。




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