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百日草の同期  作者: 兎束作哉
第2章 赤と青の同期
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case14 イチョウの約束



「久しぶりの外出~だあ~死ぬかと思った」

「お前、赤点ギリギリだったか?」

「実は、オレも相当危なかった」



 テスト期間を終え、外出許可を得て俺たちはまた電車に揺られていた。テスト期間中は土日であっても外に出れず、それこそ1日中机に張り付いて死にものぐるいで勉強をする。それでも、時間はあってもないようなもので、どれだけ詰め込んでもこれじゃあ、足りないと追加で勉強したくなる。試験日は、その前日よりもピリピリとしており、教官の目もまた鋭くなっていた。

 そうして、座学苦手の高嶺と万年平均点の颯佐は無事テストを乗り切った。俺は、ミスがあるかと思いつつも満点で、今回も成績トップを維持できた。


 そんな地獄のテスト期間を抜けて、気晴らしに何処か行こうと言うことになったが行き先は決めていない。このまま電車に揺られるのもありかと思いつつ、外を見れば紅葉が綺麗でひらひらと、紅葉が舞っていた。秋も見頃となっており、自然と気分が上がる。

 目的地は決まっていないが、とりあえず駅を出て、辺りを見回す。すると、数人の女性から声をかけられていた。



「お兄さん達、観光ですか?」

「良ければ一緒にまわりませんか?」



と、少し食い気味に女性達は話してくる。見たところ大学生らしい。俺たちよりも年上か同い年か。



(何か、厄介だな……)



 俺はそう思いつつ、2人を見たが2人はまんざらでもない様子で、女性達の話をにこやかな笑顔で聞いていた。何というか、浮かれているというか。

 確かに2人はイケメンで、顔もいいためよくモテる。本人は自覚していないが……いや、自覚しているみたいで、警察学校の中でも女子にモテるようだった。俺はというと、そこまでモテない。俺が気づいていないだけかも知れないが、正直どうでもいい。

 女性に囲まれて嬉しそうな2人を見ながら、俺は駅の目の前に生えている紅葉を眺めていた。


 どこからどう連想すればそうなるんだと言われれば、返す言葉がないのだが、自分の母親の名前が楓だったなあなどと思い出し、自分の母と神津の母、蓮華さんは仲が良かったなあと、そこから神津の事を思い浮かべていた。

 今どこにいるのか分からないが、何処かで紅葉を楽しんでいるだろうか。それとも、四季などない国にいるのだろうか。

 何も分からない。



(見せてやりてえな、滅茶苦茶綺麗なのに……)



 そんな事を考えながら、ふっと笑みを溢す。俺の事とか忘れているかも知れないのに。

 そんなことを思っていると、後ろから肩を叩かれた。



「明智、おい、明智」

「わっ……って、何だよ。さっきの女性達は?」

「ハルハルが黄昏れている間にいっちゃったよ。というか、一緒に回れませーんって断っちゃった」

「何で」



 2人は、顔を見合わせて、こっちこそ何で? とでも言うように2人して俺を見つめてきた。

 あの流れからすれば、一緒にまわることになるだろうなと思っていたが、どういった意図があって断ったのか。それとも、単純にタイプではなかったのか。



(いや、此奴らモテるのは誇らしそうにしているが、誰かと付合いてえとか聞いたことなかったな)



「何でって、だって3人で遊びに来てるのに」

「いや、そうだけど」

「まあまあ、明智、堅いことは気にすんなって。俺たち3人でまわろうぜ」



と、高嶺に肩を組まれ、何かを隠すような2人に疑問を抱きつつも、3人でまわりたいと思っていたため好都合と「そうだな」と返す。


 この2人といるときは本当に落ち着く。

 そう思いながら、駅から離れ暫く歩くと黒いアスファルトの地面が真っ黄色に染まっているところを目にした。地面一杯のイチョウの葉。



「すっげえな。この間の雨でけっこう落ちたのか?」

「何か、掃除大変そう」



 などと、自然の美しさなど気にしないというか雰囲気も何もへったくれもない感想を言う2人とは対照的に、俺はまだその枝に葉を沢山つけたままの立派な木を眺めた。

 高嶺の言ったとおり、この間は酷く雨が降ったためか、葉は沢山散っていた。だが、まだまだその色鮮やかな姿を見せてくれる。


 遠くを見れば、綺麗なイチョウ並木が見え、何故ここに一本だけ生えているのだろうと不思議に思った。まるで、置いてけぼりを喰らった子供のように。それでも、そこにいると主張しているイチョウを見てその孤高さに感動さえ覚えた。

 独りでも生きていけるとでも言うようなイチョウを見て、そして、そんなイチョウの木の下にいるたまたま同期になった2人を見て、運命に似たものを感じた。



「来年もまた来たいな」

「いや、今来たばかりだっつーのに来年の話かよ」

「いいだろ別に。そう、外出許可ぽんぽんと取れる出もねえし、それこそ雨で散っちまうかも知れねえじゃねえか」



 そう言ってやれば、高嶺は言い返す言葉もないとでも言うように「確かに」と手を叩いた。

 俺と高嶺を交互に颯佐は見て、彼と同じようにポンと手を叩く。



「じゃあ、来年も来ようよ。来年じゃなくても良いけど、兎に角ここに。3人で」

「そうだな、空が言うとおりだな。来年は忙しいだろうし、そもそも俺たちは何処に配属されるかもわかんねえからな。都合がいいときに」



と、来年か再来年もっと先かも知れないが未来の約束をする。


 約束をしたのは小学生ぶりというか、一方的な約束のようにも思えたが、こう、誰かと未来を約束するのは久し振りだった。



「じゃあ、指切り~」



 颯佐は声を上げ俺と高嶺の間に小指を出した。

 俺と高嶺は顔を見合わせ、フッと笑うとその指に自分の小指を絡ませる。普通3人でやるものなのかと思ったが、そこには触れないでおく。

 まるで、青春をしているようで俺は、楽しくて仕方がなかった。



「指切り~げんまん、嘘ついたら針千本の~ます」

「「「指切った」」」



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