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百日草の同期  作者: 兎束作哉
第2章 赤と青の同期
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case09 苦手なことが1つ



 カタカタとキーボードを打つ音だけが響く。

 青白く感じる液晶と睨み合いながら、よく分からないアプリケーションの操作をする。



(うっぜぇ……マジで意味分かんねぇ)



 俺はそう思いつつも、後れを取らないようにと勧めていく。


 サイバー犯罪が年々増加傾向にある為、パソコンに関する知識は今や重要になってきた。元々機械ものに弱かったこともあり、こればかりは座学やランニング、剣道や逮捕術と言った他の授業よりかかなり出来なかった。

 基礎知識からアプリケーションの操作、捜査書類等の作成の方法などを学べるのだがそれでも飲み込むまでにはかなりの時間を要した。

 最初は慣れない作業だったが、段々と効率良くできるようになってきたと思う。マシには、だが。



「真面目な明智でも苦手なもんあんだな」

「話しかけんな、間違えるだろうが」

「ハルハル、カッカしてるね」



 両隣に座る高嶺と颯佐は俺の画面をのぞきながら、俺が打ち込んだ文章を読んでいく。高嶺の茶々にイラつきながら、誤字脱字がないかどうか確認する。


 何とも運の悪いことに、いつもこの2人が俺の両隣か真正面にいるのだ。そこまで時間は経っていないが、大分生活にも慣れ、この2人のおふざけも流せるようになってきたのだが、完全に無心になる事は出来なかった。教官も教官で俺にこの2人を押しつけているのか、この2人が何かをしでかせば俺が怒られる羽目になった。別に俺は何も悪いことはしていない。この2人のミスをカバーしつつ、それがカバーしきれなければ怒られると言った感じだった。

 まあ理不尽なのは今に始まったことではないので、仕方なく「はい、すみませんでした」と言うしかない。

 それを此奴らがクスクスと笑っているのは許せなかったが。



「そういうお前達は出来たのかよ」

「あー俺は、明智よりかは出来る。って感じか。こういうのは、俺よりも空の方ができるぞ、な?空」

「そんな褒められることでもないけれど、まあそれなりには」



と、高嶺に褒められてまんざらでもない様子の颯佐は耳を赤くしていた。彼は頬が赤くならない代わりに耳が赤くなる。


 そんな癖というか体質もここ数日ぐらいで分かってきたことだった。

 寝食を共にする同期で、何かと一緒になることが多いため、この2人についてはよく分かってきた。だが、まだ色々手一杯と言った感じで、思い出話をしている余裕はない。



(……まぁ、俺から話すことはねえけど)



 そう思いながら、キーボードを叩く。

 高嶺と颯佐とは反対側に座っている教官が俺達の方を見ており、視線を感じる。



(何だ、さっきからこっち見て……ん?)



「ハルハル、そこ間違ってる」

「あっ、ほんとだ。ありがとな、颯佐」



 教官に何か言われる前に、颯佐がこっそり教えてくれたため難を逃れる。

 本当に、細かいところまで気づくなあと感心する。機械系は、颯佐は得意なのだろうと、アナログ人間である俺と比べれば天と地の差だと思った。

 颯佐は、また嬉しそうに口角を上げていた。颯佐は笑うとさらに子供っぽく見えて、その無邪気な笑顔が可愛いとさえ思った。



(男に可愛いはあれか……)



 もし、気にしていたらあれだと俺は口を閉じる。



「でもまあ、空の得意分野はこれじゃねえけどな」



と、俺と颯佐が喋っているのが気にくわないのか、高嶺は聞えるような声で俺たちに向かってそう言った。


 機械いじりやパソコン系が得意分野じゃないのなら何が得意なのだろうかと、疑問に思っていればその疑問をすぐさま高嶺が解消してくれる。



「なあ、もう数週間したら外出解禁じゃねえか。その時、あそこ、連れて行ってくれよ。空」

「ミオミオのお誘いとあれば!ね、ハルハルもいこう?」

「いや、何処に」



 そう聞けば、颯佐はすぐに答えようとしてくれたが、それを高嶺が静止した。

 似合わない不格好なウインクをしながら「いってからのお楽しみな」と悪戯っ子のような表情で言ってきた。


 どうせろくなことではない。


 そう、頭では分かっているはずなのに何処か楽しみにしている自分がいた。学生時代は青春というものを感じてこなかったせいか、今になってその青春というか青い心がやってきた気がするのだ。もっとあの時青春をしていればよかったという後悔ではなく、此奴らと青春したいというよく分からない感情。

 自分は大人だと思っていたが、此奴らに当てられて素直な自分が出てきたのかも知れない。

 それがいいことか悪いことかはさておき。



(そうか、もう少しで外出解禁になるのか……)



 もう少しといっても後2週間ぐらいはある気がする。入校して最初の一ヶ月は外にも出れなければ、スマホも構えないという鬼畜仕様だったので、外に出るのが待ち遠しかった。

外に出たらまず何をしようか。そんな事を考えていれば、いつの間にか授業のチャイムが鳴り号令がかかる。次は逮捕術だったか。

 いそいそと出て行く同期達に後れを取らないようにと立ち上がれば、颯佐が俺に話しかけてきた。



「ハルハル、楽しみにしててね」

「お、おう」



 颯佐が今までに見せたことないぐらいの笑顔でいってきたため、若干戸惑いつつ、数週間後の外出を俺は少しばかり楽しみに部屋を出た。




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