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百日草の同期  作者: 兎束作哉
第2章 赤と青の同期
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case08 恋人の話はしたくない



「ああ~~飯、飯!」

「何で、こっち来るんだよ」



 どかっとお盆を持ってやってきた高嶺は、俺の目の前に腰を下ろすとつかれたーと机に突っ伏した。他にも席は空いているというのに、どうしてここに来たのかとみていれば、俺の隣に座っていた颯佐が高嶺が持ってき忘れたソースを彼のお盆の上に置いた。



「さんきゅ」

「ミオミオ滅茶苦茶眠そう~」

「あー体力面は別にって感じだけど、座学!あれ、眠たい以外の何でもねえだろ!」



 今度は、ダンッと大きな音を立てて机を叩く高嶺。ものに当たるのはよくないとチラ見しつつ、確かに座学は辛いなあと共感できた。といっても、そこも基本中の基本なのでおさえなければならないし、テストもあるし、まず眠たいとバレてしまったら怒られる対象になる。だから、皆、授業よりも睡魔と戦っている感じだった。内容は難しいし、聞き慣れない単語も多い。勉強が苦手な人はまずここで脱落するだろう。


 それにしても、この二人はよく喋る。


 疲れているんじゃないのかと白米を口に運んでいれば、高嶺が俺の名前を呼んだ。



「また、澄ました顔して。明智は辛くねえのかよ」

「1日目で辛いとか言うな。まだ午後もあるんだ。気を抜けないだろ」

「真面目ちゃんだなあ」



と、嫌味のように言う高嶺に苛立ちつつも、売り言葉に買い言葉ではいけないと、俺は口を閉じる。


 頬杖をつきながら食べるという何とも行儀の悪い食べ方をする高嶺を前に、俺は無言で食事を取った。食事の時間も限られているため、話してはいたいが周りに合わせている余裕はなかった。

 それよりも、俺たちに向けられている視線が気になって仕方がなかった。



(2、3人いやもっとか?ここは、高校とかとは違うんだ。んな、気になる先輩みたいな風に見るなよ)



 女子達がこちらを見ていることはすぐに気がついた。自分が見られているとは思っていないが、こそこそと仲よさそうに話しているところを見ると、大方この2人について話しているのだろう。

 高嶺と颯佐は見た目はそこそこなイケメンで、それこそ黙っていれば容姿は完璧と言った感じで、これは女子が放っておかないだろうなあと思う。だが、恋愛やそういうことをしにこの学校にきているわけではないと、俺は呆れてしまう。それに、此奴らの性格とよくまわる口を前にしたらきっと乙女心も砕けるんだろうなと思う。

 どっちにしても、俺には関係無いことだが。



「俺モテるだろ」

「げほっ、ごほっ……」



 そういきなり高嶺が言うので、俺は飲んでいた味噌汁が変なところに入りむせてしまった。「ハルハル大丈夫?」と俺の背中を叩く颯佐に感謝しつつ、こうなった原因の高嶺を見てみれば、既にご飯を平らげ、先ほどと同じように頬杖をつきながら俺の方を見ていた。何だか、自信ありげと言うか、羨ましいだろとでもいうような憎たらしい表情を向けて。



「お前、何言ってんだよ」

「いやぁ、さ。さっきから、ちらちら見られてんなーって思っててさあ。俺ってモテるんじゃねって」

「寝言は寝ていえ」

「嫉妬してんだろ」



と、訳の分からないことを言う高嶺にさらに俺は頭が痛くなった。


 此奴もそういう脳なのかと、理解に苦しむ。

 俺は頭を抑えつつ、高嶺の言葉を否定する。



「嫉妬何てしてねえし、第一俺恋人いるから」

「は?」

「え?」

「ん?」



 そう思わず口から出てしまい、自分でも何を言ったのかと自分の言った言葉を思い出してみる。

 高嶺も颯佐も以外……を通り越して、目が点になっており食い気味に俺の方を見た。目が怖い。



「は、はあ!?おま、明智、恋人いんのかよ」

「声デカいぞ。何だよ、そのまず友達もいないくせに見たいな目は」

「ハルハルに恋人!?え、え、紹介してよ」



 など、高嶺と颯佐に挟まれ、どうしてこんなことになったのかと思いながらも、俺も食べ終わり、逃げるように食器を片づけようと席を立つ。

 すると、颯佐は残っていた千切りキャベツを駆け込んで、立ち上がる。2人を振り払うように歩き出したとき、後ろから金魚の糞のごとくぴったりとついてきた。ついてくるなと言っても、聞く耳を持たない2人はそのまま俺の後をついてくる。



「いやいや、今の話し気になって明智から離れられねえわ」

「ハルハルが話してくれるまでずっと付きまとうから」

「いや、しつこすぎるだろ。後、目立つからやめろ」



 そう言ってもこの2人が聞くはずもなく、説明しろとせがんでくる。

 きっかけを作ったのは高嶺だというのに、どうして俺の話になるのか。そんなに面白い話しでもないのに。


 話そうか、話さまいかは考える必要すらなかった。

 答えは、話さないだ。



(恭の事、話すわけねえだろうが……)



 そもそも、今その恋人は日本にいないこと、そして10年以上も音信不通であることなど言えるはずもなかった。言ったら「それは本当に恋人なのか」とか「その話をもっと聞かせろ」とか言われるに違いない。


 俺はそう考え、チャイムが鳴るまで2人の聞かせて攻撃を無視しつつ何とか逃げ切ることに成功した。



 勿論、この夜また質問攻めに遭ったのは言うまでもない。




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