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百日草の同期  作者: 兎束作哉
第2章 赤と青の同期
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case07 早朝ランニング



「ふあぁ……」

「ハルハル眠そうだねえ」

「一体誰のせいだと……」



 6時に起床し、その後すぐにジャージに着替えて朝のランニングが始まった。

 父親に聞いていたとおり、朝からハードだと現段階でも思う。これがある、警察官は体力勝負だと思っていたため部活をやめた後も個人的にランニングを続けているが、朝はそこまで強くないため、眠気も残っており身体が重かった。その身体にむち打って目を開いて置いていかれないように走る。列が乱れれば、教官の怒声が飛ぶため、皆必死に走っていた。


 これぐらいは、平気……と思いたかったのだが、寝不足もあってイマイチ元気が出ない。


 隣を走っていた颯佐がバレないようにコソッと話しかけてき、俺は前を向いたまま返事をした。

 颯佐はぐっすり眠れたようで肌がつやつやとしている感じだった。



「2段ベッドって何かテンション上がるよね!」

「はいはい」



 寮の部屋には、2段ベッドが2つあり、颯佐は迷うことなく上を選んだ。高嶺は颯佐の下がいいと言ったため、俺は別のベッドの下で寝ることに。別に俺は下でも上でも良かったのだが、人に相談するでもなく勝手に勧めていく2人に腹が立った。2人は仲がいい幼馴染みだと言っていたが、全く2人だけの世界と言った感じで俺は蚊帳の外だった。

 神津がいたらこんな感じだったのかな、と俺は高嶺と颯佐を自分と神津と重ねつつ就寝したのだが、彼らの鼾や寝言が煩くて熟睡できなかったのだ。百歩譲ってベッドが狭くて硬いのは許せるとしても、いきなり「ぴー」など人間が発するのか疑いたくなる鼾を颯佐がするものだから、驚いて寝付けなかったのだ。寝ているときのことだからしょうがない。そう言い切れればよかったのだが。


 そうしているうちに、またあくびが出てきそうになるがグッと堪える。



「つか、高嶺……彼奴先頭なんだな。てっきり、お前の隣かと思った」

「う~ん、オレじゃミオミオの隣に並べないからね」



と、先頭を走る高嶺を見つつ俺は颯佐に尋ねた。


 てっきり、2人はいつも一緒の二コイチかと思っていたのがどうやら違うらしい。だが、颯佐の態度からして「自分の体力では高嶺に勝てない」ともいっているようにも思え、俺は先頭を走る高嶺を眺める。確かに、朝っぱらから一番声を出して先頭を走って、元気なことだと思う。

 まだ彼らのことをよく知らないが為に、高校ではどんな部活動をやっていたのだとか、趣味は何なのだとか聞けていない。聞く時間がないといった方が正解なのだろうが、それでも自分でも驚くほどに彼らのことを知りたいと思っていた。知っておいて損はないという管理的な意味ではなく、同期という意識がたった1日かそこらで芽生えたのだ。自分でもあれだけ彼らのことをぐちぐちと心の何処かで値踏みしていたくせに。



「あっ、もしかして、ハルハル、ミオミオのこと気になる感じ?」

「別に……」

「うっそ~絶対気になってる。まあ、同期だし、色々知りたいよね」



 聞いていないのに颯佐はべらべらと喋りだす。


 俺が興味を持っていることに気づいているのか、それともただ単に話す相手が欲しいと思っているのか。どちらにせよ、俺は話を聞きながら走り続ける。見つかったらただジャス間ないなあなどとちらりと教官の方を見る。俺たちは遅れていない部類だったが、後ろの方でついていけてない同期がいたためにそちらを怒っているようだった。そいつらが脱落してしまうとプラス何周とか、今度は俺たちに目が当てられるんじゃないかとヒヤヒヤしている。

 けれど、颯佐の話には興味が引かれつい耳を傾けてしまっていた。



 颯佐は、高嶺とは幼馴染みで小学中学とは一緒だったが高校は違うところに言ったらしい。何でも颯佐の方がやりたいことがある為に少し遠い高校に行ったとかで、高嶺はそのまま公立校に進学したらしい。彼らは捌剣市の隣の双馬市出身で、あっちは捌剣市よりも高校の数も多く交通の便がいいため学力と金銭に問題がなければ高校など選び放題だ。俺は、私立だったが、特待生だったためそこまでお金はかかっていなかった。最も、一人っ子で経済的にも安定している家に生れたため苦労はしなかった。



「まあ、ミオミオから武勇伝聞かせて貰えばいいんだけど、きっと彼も語りたいだろうし。ミオミオね、すっごいんだよ。多分、オレ達じゃ体力、運動面では叶わないと思う」



と、まるで自分事のように嬉しそうに語る颯佐からは、高嶺が好きというオーラが伝わってくる。それは恋をしている乙女のような顔で、見ているこっちが恥ずかしくなるような表情だ。だが、本人は全くそういう気はないのだろうと思う。


 ただの仲のいい幼馴染み。


 俺と神津とは違って。



「もうプラス1周だ!」



と、それまで後ろにいた奴らを怒っていた教官が今度は全体に向かって怒声を飛ばす。怒声なのか、いつもこんな感じかは分からなかったが、さらにもう1周と言われ、あからさまに嫌なかおをする奴らがいた。


 颯佐も「あちゃ~」と軽口を叩いていたが、その顔は絶望していた。どうやら、そこまで体力はないらしい。俺も上の下ぐらいだから分からないでもない。



「喋ってるのバレちゃったのかもね」

「じゃあ、お前のせいだな」



 そうニヤリと笑って言ってやれば、颯佐はガラス玉のような青い瞳をまん丸にし瞬きすると「ひっどぉーい」と口にした後軽く俺の背中を叩いた。



「オレだけのせいじゃないよ。ハルハルもオレの話、楽しそうに聞いてくれていたじゃん。連帯責任」



 颯佐はそう言って笑うと、あと1周頑張ろうね。と優しく声をかけてくれた。



「ああ、あと1周やる気出して頑張るか」



 自然と頬が緩んだのは、きっと気のせいだろう。



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