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百日草の同期  作者: 兎束作哉
第2章 赤と青の同期
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case06 よろしくされたくねえ



「おい、いつまで笑ってるつもりだ」



 すぐに切り替えて、自己紹介をしてくれるだろうと目の前の2人のことを見ていたが、彼らの笑いは収まる様子はなく、目尻に涙を浮べながらひーひー言って笑うだけだった。

 いつまでも、放置しておけば話が進まないと痺れを切らし、声を掛けるとようやく我に返ったのか、涙を指で拭いながら口を開いた。



「あー悪ぃ、悪ぃ。ひっさしぶりに笑った気がする。ここ1週間忙しすぎて、笑う暇なったからな」

「あっそ」

「おいおい、酷ぇな。ちょっと笑っただけで」



と、ポンと肩に手を乗せられるものだから、俺はその手を勢いよく払って目の前の男を睨み付けてやった。


 彼は、それすらも面白いようでまたふっ……と馬鹿にしたように笑う。

 何がそんなに面白いのか分からない。警察官になる人間は、そもそもここまで来れた人間は真面目な奴らが多いと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。だが、こんな態度で授業を受ければ一発退場ではないかと思うくらいにはふざけているようにしか見えない。

 それに、先程から俺のことを見ている青い髪の男も気に食わない。


 俺に何か用でもあるのか? という目で見てやれば、瞬きするばかりで彼も笑いを必死に堪えているようだった。2人して俺を馬鹿にしているようで気にくわないというか、それを通り越して面倒くさい奴らだと思った。

 こっちは自己紹介をしたというのに、此奴らはしないのかと無言の圧をかけてやればようやく思い出したかのように赤黒い髪の男がしゃべり出した。



「あーえっと、そう!自己紹介してなかったな」

「今頃かよ……」



 そう思わず零せば、「何かいったか?」と睨まれたため、慌てて首を横に振る。

 そして、赤黒い髪の男は、咳払いをして仕切り直した。



「俺は、高嶺澪って言うんだ、でこっちは――」

「颯佐空。気軽に空って呼んでね~」



と、それまで口を閉ざしていた跳ねた髪の男はにんまりと笑った。その笑顔は何だか子供っぽく身長もさほど高くないように感じ、まだ学生感が残る印象を受けた。声も幼く感じたし、何というかノリが軽い気がした。それは、颯佐だけでなく高嶺という男も同じだが。


 ただ何というか、ノリは軽いし色々と舐め腐っている感じはあったが、根性はありそうだなあとも勝手な柄に分析をしていた。それがバレたのか、二人は(主に高嶺)のほうが何見てんだよ。と睨みを利かせてきたため、俺は慌てて首を横に振った。



(相部屋の奴らとは問題を起こさないようにしよう。面倒くさそうだ)



 まだどういう奴らか掴みきれていないが、自分とは全く違うタイプだと直感的に分かった。どうしても戯れを好きになれない俺からしたら少し苦痛であったが、警察官は集団行動が命のため、チームの輪は乱せない。



「んじゃ、まあ。これからよろしくな、明智」

「よろしく、ハルハル~」

「は、ハルハル?」



 そう言いながら、ガッと肩を組んできた距離感もバグっている二人に驚きつつ、颯佐が変なあだ名で呼ぶものだから思わず聞き返してしまった。

 颯佐はどうしたの? といった感じに不思議がっていたが、不思議がるのは許して欲しい。



(初対面で、あだ名って……しかも、だせぇし) 



 口には出さなかったが、あまりにも酷いネーミングセンスに俺は頬を引きつらせることしか出来ない。だが、これが颯佐のコミュニケーションなんだなと瞬時に理解する。



「あれじゃね?お前が、ハルハルなんてあだ名で呼んだから驚いてんだろ」

「そっか、そうか。距離の詰め方分かんないなぁ~仲良くしたいって気持ちが強くて」

「あ、ああ……別にそれで構わない。その、ハルハルでも……」



 などと、一応口にしてやればパッと颯佐は顔を明るくさせた。何がそんなに嬉しいのか分からない。

 ただ、こういう人種に下手に逆らうと調子に乗らせてしまうので適当に流すことにした。すると、横で聞いていた高嶺が、ふぅんと鼻を鳴らしてニヤリとした笑みを浮かべる。嫌な予感しかしないが、もうすでに遅かった。



「なあーに、いい子ぶってんだよ。本当は嬉しかったくせに」

「嬉しくねえし、おい、頭撫でんな」 



 俺の頭をワシャワシャと乱暴に撫でる高嶺の手を振り払いながら、不快感を表に出して俺は睨み付けてやったが、全くヘでもないといったように高嶺は笑うばかりだった。

 どういう神経をしているのか分からない。

 警察学校に入った以上別に髪のセットに時間をかける暇も何もないのだが、それでも清潔感を保つためにはある程度はといていないといけない。なのに、此奴ときたらいちいち仕事を増やすことをして。

 怒りを抑えつつも、俺はもう決められてしまった寮割を仕方なく思い明日から始まる授業に向けて体力を温存しようと思った。



「まっ、これからよろしくしてくれよ。明智」

「よろしくされたくねえな」



 そう返して俺は、心の何処かで値踏みするように高嶺と颯佐を見つめた。



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