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百日草の同期  作者: 兎束作哉
第2章 赤と青の同期
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case05 迷惑な同期



 季節は巡って春になった――――



 桜は満開になり、その薄いピンク色の花びらが舞い散り黒いアスファルトを彩った。

 警察官試験には無事受かり、それでも共通テストを受けろと受けさせられ、高校を卒業した。最後の最後まで、その進路でいいのかと言われ続けたが、俺は曲げる気などなく、自分の目指したスタート地点までたどり着いた。


 ここからがスタート、ここからが本番だ。


 勿論、今までの努力は無駄ではないし、あとは、自分がどこまでやれるかというだけだと。

 入校では、俺の制服姿を見て母親は涙を流していた。今年は、保護者も出席できるようだったが、それほど人数はいなかった。ザッと見て、入校生、同期もそこまで多いとは感じなかった。そして、俺は入校生代表挨拶に選ばれており、壇上に上がる事となった。緊張はしなかったが、後ろから刺さる同期のプレッシャーというかそういうものを感じてはいた。


 仕事に誇りを持つこと、堂々とすること。


 入校したら身分は警察官である為、学生という感覚は捨てないといけない。給料も申し訳ない程度に貰えるし、気を抜けないと思った。

 緊張からか、それともこれからの10ヶ月間を見据えてか皆表情が硬かった。まあ、笑っているのは場違いだが。



「私は、日本国憲法及び法律を忠実に擁護し、命令を遵守し、警察職務に優先してその規律に従うべきことを要求する団体又は組織に加入せず、何ものにもとらわれず、何ものをも恐れず、何ものをも憎まず、良心のみに従い、不偏不党且つ公平中正に警察職務の遂行に当ることを固く誓います」



 服務の宣誓をし、俺達は晴れて警察官の第一歩を踏み出した。

 これからが本当の始まりなのだと、俺は一人拳を握った。



「だあ~服慣れねえな」



 警察官の制服は、学校の制服以上に身がしまって肩がこる。上にぐいっと腕を伸したがそれでも伸びたりないぐらいに、肩がつまっていた。

 これから毎日着ると思うと、少し気が重くなる。だが、それもこれも仕事をする為には必要なことだと思えば我慢できた。


 入校式が行われる1週間の内に脱落するものもいたから、まだこの程度だと自分に言い聞かせる。元々、父親にどういう場所か聞いていたこともあって常に自分に厳しく素早くもこれでもかというぐらい、身なりやルールを復唱した。成績も高い位置で合格したこともあって、本当に気が抜けない。

 警察学校は全寮制、起床も就寝時刻も決まっている起立に厳しい軍隊のような生活を強いられる。そして、朝礼・点呼があり、それから授業が始まる。

 午前中の座学で一般教養や刑法などの座学の筆記試験の勉強をする。昼食後は、柔道や剣道などの武道の実技の授業がある。それが終わればまた勉強、夕食を食べて入浴し、兎に角やることが多く、時間はあってないようなものだった。


 体力と忍耐力が必要になってき、隠れてすすり泣いている奴もいた。

 別に根性がないとは言わないが、生き残っていけるのかと心配にもなる。



「今のうちだな、桜が綺麗だとか言えるのは」



 母親は花の中でも桜が好きだと言った。春は花が沢山咲いて、育つ季節だからと花屋らしいことを色々と話していたが、俺はその大半覚えていない。警察官にその知識が必要となるかと言えばNOだからだ。といっても、大切な母親の話、全てを流すわけにもいかず、繰り返し話されたことは何となく頭に残っている。それでもうろ覚えだが。


 俺は、手のひらに落ちてきた桜の花びらを握りしめ空を見上げた。

 青い青い空、何処までも続いているように感じるその青さに思わず目を細めた。



「1枚だと思ってたんだが」



 次に手のひらに視線を戻せば先ほど掴んだはずの桜の花びらが、3枚あることに気がついた。握ったのは1枚だと思ったのだがと、不思議に思いつつ、ここで油を売っているわけにもいかないため、寮に戻ることにした。

 4人~8人の相部屋らしいが、幸いなことなのかどうなのかはさておき、俺たちは4人部屋だった。と言っても、1人脱落したせいもあって何故か俺含めて3人だったが。



(つか、どんな奴らと一緒なんだ?)



 さすがに、まだ全員を把握しきれておらず、相部屋だからといって五十音順というわけでもない。だから、誰と一緒かなんていってみなければ分からなかったのだ。

 あまり、もめ事を起こしたくないため気弱ではなくとも理解のある人間であって欲しいと思いながら、ドアを開けるとそこには誰もいなかった。

 荷物が置いてあったことから誰かが先に来ているのだろうと、辺りを見回していると背後から声をかけられた。



「もしかして、お前が最後の1人か?」



と、振返れば赤黒い髪の男が立っておりその後ろからひょっこりと青黒い髪が跳ねた男が俺の方を見つめていた。


 此奴らが俺の同期で、相部屋のメンバーとなるのかと見ていれば、自己紹介をすることをすっかり忘れており、赤黒い髪の男が口を開いたことで、意識が戻ってきた。



「おい、聞いてんのか?」

「聞いてる。ああ、そうだ。これからよろしくな。俺は、明智春って言うんだ」



 そう自己紹介をして手を差し出したら、2人はもう仲がよくなったのか知り合いなのか知らないが顔を見合わせてプッと吹き出した。

 何も変なことをしていないだろうと、睨むまではいかずとも見れば2人は笑いが堪えきれないとでも言うように腹を抱えだした。



「いやいや、すっげえ真面目だなって思って」

「う~ん、それが普通なんだろうけど、ごめん笑えてきて」



 2人はそんなことを言いながら爆笑しており、 俺は何が何だかよく分からないままに呆然としていた。



「いや、お前ら失礼すぎだろ……」



 こんな奴らと10ヶ月間一緒かと思うと、何だか先が思いやられる気がした。




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