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百日草の同期  作者: 兎束作哉
第2章 赤と青の同期
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case04 ある花の花言葉



「ご、ごめんなさい。少し気になって」



 母親はしまったとでも言うように、慌てたように首を横に振って両手を胸の前で左右に振る。

 俺も、思わず感情にまかせてきつい言葉を吐いてしまった気がして視線を逸らした。そこで、素直に謝っていればいいものの、自分は悪くないとでも言うような態度を取ってしまったことが悔やまれる。

 警察になるのに、失敗や過ちを無視しようとしているのは完全にダメだと思った。常に忠実であれ、と頭の中で復唱し、俺は深呼吸をした後、ソファに座り直し、母親と向き合った。母親は、申し訳ないと言った感情が表に出てきており、こっちこそ申し訳ない気持ちで一杯になった。



「わる……ごめんなさい。俺が言いすぎた」

「い、いいのよ。春、気にしてたもんね。ごめんなさいね」

「いや、俺が……」



 そう二人で言い合っていても、拉致があかないと俺は一度、口を閉じた。そして、改めて母親を見る。

 母親が神津の母親である蓮華さんと頻繁に連絡を取り合っているのは知っていた。だからこそ、俺たちも連絡を取っているんじゃないかと聞いてきたのだ。

 だが、実際俺たちは音信不通状態で、神津から連絡拒否をされている状態。そんなことを言えるはずもなく、だからといって嘘をついてもという感じで、俺は何も言えずにいた。


 俺と神津が仲がよかったのを知っているから、母親としても気になったのだろう。 

 俺の母親と蓮華さんは幼馴染みで、俺たち以上に仲がよかったみたいだから。その関係は遠く離れた今も繋がっているようで。



(俺たちとは違うんだよな……)



 微笑ましく思う。大人になってもその関係と仲の良さが続くことはとても素晴らしいことだと。


 俺と神津もそうだったらよかったのに。


 だが、俺と神津の関係は幼馴染みではあるが、親友同士ではなく恋人同士。だから少し違うのかも知れないと。ただの幼馴染みであれば良かったのかと、今更ながらに思った。それでも、俺は神津の事がすきだった。勿論、ラブの意味で。



 そんなことを考えながら母親を見れば、母親は俺の表情から何かを読み取ったのか、悲しげな顔をしていた。

 俺が言葉にしなくても、母親は俺の感情や思いを読み取ってくれるようで。だからこそ、それに甘えて言葉足らずになってしまったのかも知れない。日本人の言わなくても分かるみたいなあれと同じだ。



「まあ、何かあればあっちから連絡してくるだろうし……俺は、別に用はねえから」

「そ、そう?」

「そうだよ。恭ってそういう奴だよ」



と、俺は適当なことを言ってこの話を切ることにした。


 毎日のように、恋い焦がれて顔が見たい、声が聞きたいとあれ程神津の事を思っているのに、それを自分以外の人間に悟られるのがどうしても嫌だった。

 このモヤモヤも、苦しみも、切なさも俺だけが知っていればいい。


 誰にも理解できないだろうから。


 そんなことを考えて、俺は席を立った。そして、何を思ったのかふと少し低い棚の上を見れば、ガラスの瓶に一輪の花が生けてあったのが見えた。



「その花、気になるの?」

「あ、いや……ああ、まあ」



 そう曖昧にかえせば、母親はクスリと笑って立ち上がると、俺の隣まできて生けてある野花のようなオレンジ色の花の花弁にそっと触れた。



「これはね、百日草っていうの。一年草で、でもちょっと時期が早いかなあと思ったんだけど、凄く立派だったからね」

「へ、へえ」



 悠々と語る母親を横目で見ながら、俺は興味なさげな返事しか出来なかった。

 実を言うと、そこまで花に興味はない。綺麗とか、良い匂いとかは思うがどういう育て方をすればいいのか、どう生けるのが正解なのかとかそういう細々としたことはどうも苦手だった。嫌いではないが。



「花には、花言葉って言うものがあってね」

「いや、それ前も聞いたし」

「もう一回聞いてよ。それで、百日草の花言葉はね『不在の友を思う』、『変わらない心』、『別れた友への想い』ってあってね――――」



 そんな事を楽しげに語る母親の言葉を俺は流しつつ、もう一度その百日草と名付けられた花を見て目を細めた。



(確かに綺麗だな……)



 色鮮やかで、瑞々しくて。どっしりとしたその花弁を見て、いつまでも色あせないでそこにいそうなそんな気さえした。力強さを感じる花だと、俺は知識がないなりにも思った。 

 一輪だからこそいいのだろうとも思いつつ、俺はようやく話し終えた母親の方を見た。何故か、不機嫌そうにぷくっと頬を膨らましていた。



「春、聞いてなかったでしょ」

「い、いや、聞いてた。聞いてた。えっと、花言葉」

「じゃあ、何て言ったか覚えてる?」

「うっ……それは」



 ほら、聞いてなかったじゃん。と母親に指摘され、返す言葉がなかった。

 正直、あまり興味はなかったのだ。だが、ここでそんなことを言うとまた拗ねてしまうだろうと思い、俺は素直に謝ることにした。

 俺が謝ると、母親は仕方ないわねえと苦笑して、流しの方へ歩いて行った。そして、俺の方を見るとこう口を開いた。



「まあ、警察になるならなるで頑張りなさい。まずは、試験に受かること。受かっても、周りのこのために勉強、頑張るのよ」

「分かってるって」

「それと、部活の試合楽しみにしているから」



と、母親は嬉しそうに笑い、俺もそれにつられて口角がゆるりと上がった。




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