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百日草の同期  作者: 兎束作哉
第1章 再会の同期
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case09 酔いもまわれば



「――――へえ、その話面白いね。って、春ちゃん!?」

「神津ぅ、俺のこと構えよぉ」



 女性にベタベタとする神津が、俺に構わない神津が少しばかりムカついて、俺は彼の肩にもたれかかるようにして抱きついた。すると、神津は困ったような顔をして俺を見て固まっていた。いつもなら、そのまま俺の頭を撫でてくれるのに、それもなしで困惑している神津を見ていると、寂しさと悲しさで一杯になる。


 頭がぽわぽわとして、頬も熱い。いや、身体が熱かった。

 ビールを一気飲みしたせいか、アルコールが全身にまわって酔ってしまったのだろうと自分でも反省している。

 それでも、俺は構ってほしい一心だった。


 颯佐と高嶺は、ニヤリと笑っていて、きっと後で揶揄われるんだろうなと思いつつも、今は神津に甘えたくて仕方がなかった。

 そういえば、こんな風に彼に甘えるのは初めてのような気がする。



「あ~あ、ハルハル、すっかりできあがっちゃって」

「うっひゃい、俺はまだ飲める」

「いや、無理だろ。完全に酔っ払いだわこれ」



 ついさっきまで笑っていたくせに、呆れたように颯佐と高嶺は溜息を吐きながらそんなことを言ってくるものだから、俺はまたムッとした表情を浮かべる。

 そして、空になったジョッキを見て、店員にもう1杯と注文しようとすれば、それを神津によって止められてしまう。

 それが面白くなくて不満げな視線を送ると、神津は迷惑そうな表情を浮べていたため、一気に酔いが覚めそうになった。



(何だよ、その顔。まるで、俺の事……)



 じんわりと目の周りがあつくなっていくような気がした。目尻に涙がたまっていくような、酷く泣きたくなった。

 神津は、俺のことをどう思っているのかなんてわからないし知りたくもない。

 ただ、この感情が神津にとって邪魔なものなのかもしれないと。それでも、隣にいるときはどうにか取り繕って、彼が別れを切り出したら切り出したときだと、構えている自分もいたのに。そう言ったどうしようもない気持ちを隠そうと必死に堪えていたのに、それすらさせてくれない神津に苛立ちを覚えてしまう。



「春ちゃん、飲み過ぎだよぉ」



と、神津はいつもの調子で先ほどの表情を隠すかのように笑うが、その笑顔が偽物のように思えて仕方なく、俺は唇を噛み締めた。



「いい、お前が介抱してくれないなら、高嶺にしてもらうから」

「お、おい、俺は酔っ払いの介抱なんてしねえぞ!?離れろ、明智!」



 俺は見せつけるように、隣にいる高嶺に引っ付けば、彼は露骨に嫌そうに俺を引き離そうとしてきた。それに抵抗して高嶺の腕にしがみついていると、神津が俺の名前を呼んだ。

 その声が冷たくて、思わず俺は彼を見た。

 さっきまでの優しげな雰囲気はなく、無表情のまま俺を見る神津の瞳には怒りの色が見えた。



「んだよ、神津」

「春ちゃん、引っ付くなら僕だけにして」



 そう言って、俺を睨み付ける神津。



(はっ、何を今更……)



 少しぼやけた視界で、神津をにらみ返しながら俺は目を細め、さらに密着するように高嶺にくっつけば、高嶺は諦めたように明後日の方向を向いた。

 女性陣からは何やら黄色い歓声があがっていたが、俺は気にならなかった。

 意地を張っていたんだろう。酔いが回って通常の判断が出来ないのもあるが、神津が女性にヘラヘラしているのが悪い。

 だから、俺も神津に素直になれないし、俺が何をしていようとも神津に何か言う権利は無い。

 こんなにも好きなのに、神津が俺を見てくれているだけで幸せを感じることが出来るはずなのに、それ以上を望んでしまう自分がいる。



「いーやーだ、神津はそっちの女性達と仲良くすれば良いだろうが。俺は、高嶺と颯佐と仲良くするからー」

「うわぁ~巻き込まれ事故」



と、颯佐はトイレに逃げ込もうと席を立とうとしたが、それを高嶺に阻止された。


 高嶺は道連れだとでも言うように颯佐のズボンを力一杯引っ張っていた。ずり落ちたらいけないと、颯佐も諦めたように席に座り直した。

 俺は高嶺の膝に頭を乗せて猫のように擦りつけば、神津の周りの空気が一気に凍りついた。



「みお君」

「……俺は悪くないからな」

「分かってるよ。ごめん、僕達帰るね」



 そう言って、俺は神津に無理矢理高嶺から引き剥がされた。それも凄い力で。

 高嶺は、大きなため息をついて颯佐の方をちらりと見ていた。颯佐は肩をすくめ「お金どうする?」と神津に聞く。



「春ちゃんの分も僕が払うから。空気悪くさせちゃってごめんね」

「まあ、今回の場合明智が悪い気が……」



 高嶺はそう言いつつ、口を閉じた。


 神津の前で俺の事を悪く言えば、どうなるか分かったものじゃないと察したからかも知れない。高嶺は、胸ポケットから紙を取りだし、颯佐からペンを借りるとすらすらと何かを紙に書き記し、それを神津に手渡した。



「俺の連絡先。また、探偵事務所訪れるからそん時はよろしくな。今回の謝罪もかねて」



と、高嶺は言うとフッと笑って俺と神津を見送った。


 店から出れば、辺りは既に真っ暗になっておりぽつぽつと黒い空に星が散りばめられているのがぼんやりとした視界の中見えた。




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