賢明で愚か 4
龍太はバイクできていたので『プラスター工房ムラオカ』行き付けの焼き肉までは千香良の軽自動車で移動した。
運転は龍太がしている。
焼き肉『福雲』
ナビでは検索出来ない難儀な場所らしい。
龍太にとって千香良は弟弟子。
それ以上でもそれ以下でもない。
昼食に焼き肉屋を選ぶのが良い証拠だ。
それでも千香良の顔は自然とニヤける。
如何せん、焼き肉屋に行くこと事態が千香良には初めての経験だ。
「何だ、そんなに焼き肉が嬉しいか?」
「うん、初めて行く。家は外食自体、滅多に行かないから……」
(それも……龍兄と一緒)
「食い物屋は偵察とかで余所の店に行くんじゃないのか?」
「う~ん……お兄ちゃんは行くみたいだけど……焼き肉屋はジャンルが違いすぎるよ」
「そうか……そうだな」
龍太は考え無しの自分に呵々と笑う。
そして車で15分。
焼き肉屋は工場団地の裏手で本当に分かりづらい。
けれども意外にも真新しい。
しかも、シンプルながら洒落た外観で、乳白色のジョリパットがローラーパターンで施工されていた。
「『3代目福雲』?」
千香良は壁面に打ち付けられた屋号を読んでみる。
黒文字ではっきりとはしているが、崩し文字で読みづらい。
「そう、ここは息子の店。会社が使うのは本店の方だけど、昼の営業していないから……」
龍太はさっさと店に入って行く。
千香良も同然、後を追う。
けれども、高級な店構えに作業着姿が恥ずかしかった……
「いらっしゃい……やだ、龍ちゃん、久しぶり」
すると、出迎えた割烹着姿の女性が龍太の腕を軽く叩いた。
やたら馴れ馴れしい。
「何だ、店に出ているのか?」
千香良は苛立ちを覚える。
幼稚園の先生と思しき女性に対しても同じ気持ちになった。
「そう、昼だけ。何、新しい職人さん?男の子にしておくのが勿体ないぐらい可愛い……」
通常は男と間違われても笑って済ます。
けれども、千香良は好戦的な一瞥を向けた。
「女だ馬鹿、謝れ。お前、曲がりなりにも女将だろ」
龍太も憤る千香良に慌てているようだ。
「やだ……御免なさい」
女性はどうやら女将のようだ。
どう見ても年下の千香良を相手に平身低頭、謝っている。
けれども千香良は無視を決め込む。
頭では分かっていても感情が上手くコントロール出来ない。
「千香良、余所の店に行くか?」
困り果てた龍太が猫なで声で聞いてきた。
千香良は自分が恥ずかしい。
それでも首を横に振るぐらいは出来る。
これ以上は我が儘だ。
それに、お腹も空いているし、焼き肉も食べたい。
「取り敢えず、席に案内をしてよ」
女将は先程までの馴れ馴れしさは見られない。
頷くと席にと案内をしてくれた。
『3代目福雲』は全席が個室で、高級感を売りにしているらしい。
おしぼりとメニューを持ってきた従業員はステンドカラーの黒シャツに、頭にはバンダナ。
ユニホームはどことなく和風テイストで店の雰囲気にあわせている。
席に着いて、おしぼりで手を拭くと、千香良も落ち着きを取り戻す。
「多分、腹が減って苛々していたんだな」
千香良は黙って頷いた。
本当は違う。
けれども原因不明の感情では説明も出来ない。
「千香良は我慢が癖になっいぇいるから、ちびっ子達にもお兄ちゃんって呼ばれていただろ」
「でも、お父さんの1人がお姉ちゃんですよね?て聞いてくれたから……」
「そうか……」
龍太は一通りメニューに目を通しながら、千香良と話をしている。
「何でも食えるか?」
「うん。好き嫌いはないよ」
龍太は呼び出しのブザーを押した。




