賢明で愚か 2
「時間になりましたので、整列してください」
龍太が千香良の基にやって来たのと同時に拡声器の声が響いた。
「始まるな」
「そうみたいですね……じゃあ」
元ヤン男は宣言道理、龍太に一礼すると甥っ子を伴いそそくさと場を離れていった。
龍太は特に気にすることもなく、千香良の袖を引っ張ると隣に並ばせる。
散らばっていた参加者達もそれなりに纏まって、ステージ上を注目しだす。
当然、千香良は『プラスター工房村岡』のロゴ入りポロシャツにワークパンツと作業着姿。
同業者と一目で分かる出で立ちだ。
それなのに、突き刺さる様な視線を感じる。
「あの女の人は、ほっといても良いんですか?」
ステージでは主催者が挨拶。
千香良は正面を向いたまま、小声で尋ねる。
「ほっとくも何も……挨拶が終わったら、直ぐにバックヤードで材料を練るんだぞ」
確かに龍太の言うと通り。
千香良は体験イベントの手伝いに来たのだ。
特に今回から体験イベントの内容が代わって、龍太も気が張っている。
前回までは60×80の板に漆喰を塗っていた。
そして塗り終わった平面に、手形を押したり、貝殻や小石でデコレーションをして完成。
それを、今年から大工の指導で作ったプランターテーブルの天板に珪藻土を塗ってもらう。
板からプランターテーブルにしたのは主催者側のアイデアだ。
今までは別々に参加募集をしていた大工仕事と左官仕事の体験を同時に出来ると好評らしい。
そして漆喰から珪藻土に変更した理由はデコレーションの仕方に型抜きと、櫛引、刷毛引きを加えたから。
漆喰だと繊維が邪魔で上手く仕上がらない。
「それでは、皆様受付でもらった番号札のブースに別れて下さい……」
主催者の挨拶が終わったようだ。
「行くぞ……」
龍太が、またもや千香良の袖を引張てくる。
幼稚園の先生らしき女性から千香良に向けられ視線は外されていない。
「ねぇ、龍兄……あの女の人が、こっちを見ているよ……何か言ってきたら……」
千香良は確かに、突然現れた女性に対して面白くない気持ちを抱いた。
けれども、気に入る、気に入らないとは別として、龍太の態度は頂けない。
「週末は暇ですか?って、ラインが届いたから小学校でイベントがあるって返事したら、調べて勝手に来たんだぞ……俺に、どおしろって?」
龍太は飽くまでも素っ気ない。
「でも……龍兄の知り合いでしょう……気の毒だよ」
千香良にだって女心ぐらい分かる。
少しでも龍太に会いたかったのだろう。
龍太は「フッ」と鼻で笑う。
「心配しなくても、そのうちに帰るか、相手をしてくれる人間を探すだろう」
千香良は酷いと思う。
人間、何かしら欠点はある。
龍太は関心の無い人間にはとことん冷たい。
それは現場でも時々、気になる。
けれども、いくら何でもあからさまだ。
わざと嫌われるように仕向けているように見える。
けれども千香良は少し嬉しい。
理由はともあれ龍太は千香良と共にいる。
他人の不幸を喜ぶなんて悪い子だ。
恋心ではない。
ただ……
龍太に対する独占欲は否めない。




