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ガテン系の女 愛より、恋より、修業中  作者: うらら桜子(旧 咲良ヤヨイ)
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純美で滑稽 4




 千香良はキャンプとは存外贅沢なレジャーなのではないかと思う。

 犬種は分らないがドッグランを駆け回る犬らは大型犬も小型犬も立派だ。

 しかし、ハーネスを外して問題は無いのだろうか……


「千香ちゃん、乙葵さんって『赤煉瓦』でバイトしているの?」


「うん、真君に頼まれて……乙葵さんは凄いよ。美人でスタイルが良くて、仕事も出来るし……日本語、中国語、英語、スペイン語って4カ国語も話せるんだよ」


「そうなんだ……私、従姉妹なんだけど会ったことがないの」

 

 意外な話だ。

 それに弓の口調は索漠(さくばく)としている。

 千香良は真剣に聞く必要を感じた。


「私も真君も子供だったから乙葵ちゃんがオーストラリアに行った理由を知らなかったんだ。親に聞いても教えてくれないし……子供ながらも何かしら事情があるんだって思うんだけど……子供って直ぐに忘れるでしょう」


 三上家で乙葵が異端の存在であることは薄々、分っていた。

 

 そして千香良は話を引き出すのが上手い。

 相手が話している最中は目を反らさずに時折、頷く。

 それだけだ。


「三上の家ってお見合い結婚が普通なの。医者の家系って多いんだよ……でも、真君のお父さんは例外で恋愛結婚なんだ。それで叔母さんは虐められていたんだって、お母さんから聞いた。嫁が馬鹿だから子供の出来が悪いって言われていたらしい。だから、乙葵さんが反抗的になったって」


 千香良は歯がみした。

 嫌な婆だ。


「それでね、叔母さんが乙葵さんを逃がしたんじゃないかって……私は思っているの」


 お見合いなんて、千香良には想像出来ない。

 けれども納得も出来る。

 確かに頭の出来が悪くては医者の家系では致命傷だ。


「弓ちゃんもお医者さんに成るんじゃないの?」


 千香良は率直に聞いてみる。

 

「私は無理。人の血なんか見られなから……文学部に行っている。そして大学卒業したらお見合いして結婚するかな」


「そうなんだ……お見合い結婚するんだ……」


「うん、私はお金が無いと幸せになれないと思うから、別にいいの。けど……真君はどうなのかな……って心配しているの」


 弓は千香良からドッグランに視線を移した。

 

 要するの、三上の恋人が、どこかの馬の骨では、容認できないらしい。

 千香良はファミリーレストランでの弓の視線に合点がいった。

 

 けれども、恋人=結婚相手と考えるのは、早すぎる。


「真君は先のことは考えてないよ」


 千香良も同じように駆け回る犬を目で追いかけている。

 

「何で?真君も同じ事、言った」


弓は驚いたように首を千香良の方に戻した。


「だって、まだ18歳だよ」


 本当は年齢の問題ではない。

 千香良は三上とは行く道が違うと思っている。

 だからこそ今、恋人でいるのだ。

 そして10代の恋愛を楽しみたい。


「何か……大人だね。私は恋愛結婚出来ないから、特別な恋人は作れないと思っていたけど違うんだね」


「人、それぞれだと思うけど……」


「でもね、お母さんから聞いた話なんだけど……乙葵さんは好きな人が出来たから、見合いをする将来を嫌がったって……16歳の時だよ……千香ちゃん分る?」


「難しいね」


 千香良は話を終わらせる言葉を選んだ。

 恋愛感や結婚感は十人十色で正解はない。

 ましてや、まだ10代の小娘。

 答えなんて分るわけがないのだ。


「そうだね」

 

 弓も話を終わらせた。

 

 先程まではいた大型犬はシベリアンハスキーで、今、居るのはコーギーとミニチュア・シュナウザー。

 

 その後は暫く犬の観察を楽しんだ。

 弓は犬が大好きらしく凄く詳しい。


「弓ちゃんは飼っていないの?」


「家の子はミニチュアピンシャー……でね……」


 弓は愛犬の話しとなると止まらない。


 千香良は拙い(まずい)ことを聞いたと後悔した。


 そして、日の入り前に皆がブースに再び集合。

 まだ仄明るいが、ランタンの灯りがチラホラ点り出す。

 

 釣りに行っていた連中は宣言達成。

 アクアパッツァ用に小さなアジを5匹釣ってきた。

 

 これから夕食の支度に取り掛かかる。

 男性陣は薪の調達と火起こし。

 女性陣は炊事場に……

 魚は千香良が捌いた。

 得意ではないが他に出来る人がいない。

 次いでにコインランドリーも使用した。

 汚れ物は持ち越したくない。


 そして、先にカレーを煮込み、それからアクアパッツァ。

 ディナーが出来上がる。

 雰囲気も最高潮。

 帳が落ちて、ランタンの明かりが浮かんでいた。

 

 皆は「赤煉瓦」のカレーに大興奮。

 プロが作ると流石に味がコク深い。

 飯盒で炊いたご飯もお焦げが香ばしくて最高だった。

 続いては問題のアクアパッツァ。

 如何せんアサリ抜きだ。 

 それでもニンニクと唐辛子にアジのさっぱりとした旨味とトマトの酸味が絶妙で思いの外、美味しく出来た。

 

 けれども、ビールを飲んで酔っ払った三上は早い段階で撃沈。

 千香良が三上と約束した一晩中の天体観測は叶わなかった。

 

 その代わり、星空は起きていたメンバーで仰向けに並んで眺めた。

 酒が入ったノリだったが忘れられない思い出になると思う。

 

 しかしながら……

 アルコールが入ったせいか先に男性陣は次、次と寝落ち。

 百合と愛子もいつの間にか寝入っていた。

 

 千香良と弓は深夜過ぎにコテージに移動。

 折角のコテージを使わない手はない。

 メイクも落とせるし、シャワーも浴びれる。


 何より、テントでは酔っ払った男性陣の鼾が五月蠅くて寝られそうもなかった。

 

 そして、早朝。

 AM6時に千香良は三上からの着信で起こされた。

 早くに寝入った三上はまだ暗い時間から起きていたそうだ。


 結構な音量なのに隣で寝ていた弓は熟睡している。

 百合と愛子も最終的にはコテージで寝たようで、隣室で寝ていた。

 同じく、まだ熟睡中だろう。

 

 千香良は静かにシャワーを浴びてから外に出掛けた。

 

 高台でも既に夏の陽射しは暖かい。 

 キャンプ場の朝は早く家族連れが犬の散歩をしている。

 朝食の準備をしているのだろうか、ベーコンの香りが風に乗ってきた。


 待ち合わせはサニタリー棟。

 他のメンバーはまだ寝ているらしい。

 

「お早う」


 千香良は洗面所で三上を見つけた。

 朝の歯磨き中だ。

 

「おう、お早う」


 コインシャワーを使ったようでさっぱりとしている。

 千香良からも石鹸の匂い。

 

 何事もなかったにも拘わらず気恥ずかしい。

 

「楽しかったか?」


「うん、真君と付き合っていなかったら経験できなかったよ」


 三上の周りに人達は皆、それぞれに魅力的だ。 

 優等生ばかりの集まりのせいか将来を見据えながら青春を謳歌している。

 

 弓は勿論、百合と愛子ともラインの交換をした。

 女子校を中退して友達を失った千香良にとっては凄く嬉しいことだ。

 

 三上は千香良に新しい出会いをくれた。

 改めて大切に思う。


「千香ちゃんは週明けから仕事だろ」


「うん」


「姉さんが、お盆休みをずらして取るのを知っているか?」


 早朝に呼び出して……

 話が乙葵の休み?


「うん、チラッと聞いただけだけど……何で?」


「俺も塾の休みが取れてさ、一緒にオーストラリアに行こうと思うんだ」


「え~良いな~」


 乙葵を預かっていた親類は今でもオーストラリア在住している。

 弟が一緒に行くのも不自然な話じゃない。


「姉ちゃんの息子は7歳だって……初めて知った。俺の甥っ子に会いに行くんだ」


 千香良の口がポカッと空いた……

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