大らかで打算的 2
三上の四駆が走り出しても前庭の灯りは点っている。
父と母がいつまでも見送るっているのだろう。
千香良は返って心細くなっしまった。
「千香ちゃんの、お父さんって競輪の選手だったんだよね」
無言で助手席の座る千香良に三上が話し掛けてきた。
未だ未だ、付き合い始めて日が浅い。
沈黙が心地よいとはいかないようだ。
「うん。でも私が生まれた時には引退していたから……余り知らないんだ」
「怪我で引退?」
「う~ん……怪我する前に引退したって感じかな……ママは辞めて欲しかったみたいで、迷っていたら、お兄ちゃんが産まれて……その後、暫くしてS級から陥落したんだよね……それで踏ん切りが付いたって聞いたような……人生は嫌でも落ち着くところ落ち着く、ってパパはいつも言っている」
「なるほど……」
三上は妙に納得して黙ってしまった。
何だか気になる。
千香良には分らない哲学だ。
「ねぇ、ねぇ、何が‘なるほど’なの私にも分るように教えて?」
最近の千香良は何でも有耶無耶にしない。
本当に言葉の意味を理解したい。
「色々、紆余曲折あっても、本来そうなるべき方向に進んで行く、とか……本来あるべき姿になる、とか……そんな感じかな?僕らには未だ未だ難しい話だね」
千香良は唇をほんの少し尖らせて、小首を右に左にと傾げて見せる。
可愛らしい仕草だ。
「本来と、べき、が味噌だね。べきは義務?」
「少し違うかな……主観的じゃなくて客観的に社会常識や道徳的に添った判断をする……かな?でも……千香ちゃんのお父さんの言葉の意味は、もっと、運命的な意味合いが強いのかな……どうだろ」
「なんだ、成るようにしか成らないって奴だ」
千香良は物事を深く考えられない。
単細胞ときている。
「ハハッ……でも俺は、千香ちゃんの、そんなところが大好きだよ」
失笑と同時に三上が恥ずかしげもなく‘好きと’口にした。
初めて聞かされた言葉に千香良は、嬉しいよりも、むず痒い。
それなのに首から上が異常に火照る。
千香良は頬を掌で挟むと運転席の三上をチラ見した。
横顔でも口元が綻んでいるのが分る。
満足そうだ。
「もう少しで、先輩の家だから」
深い闇を車のライトが割っていく。
擦れ違う対向車すらいない。
千香良はギアに置かれた三上の手を軽く握った。
三上の口元が一層緩む。
(大好き……)
千香良は心の中で同じ言葉を唱えてみた。




