曖昧で累卵 4
千香良は畜産試験場の現場から外された。
村岡の意向だそうだ。
噂が広まるのは早い。
事件当日も誰かしらは現場に居たはず。
傍観者に限って口が軽い。
千香良は龍太と同じ現場でなくて少し安堵している。
嫌でも昨晩、三上に言われたことを思い出す。
答えは出た。
だからこそ意識しそうで嫌だ。
出来るなら当分は会いたくない。
代わりに庫裏の現場に来ている。
村岡と上大園が一緒だ。
古い家屋で竹小舞粗壁仕上げの改修工事らしい。
今日は、どの程、現状を度生かせるか下見に来た。
実際に現場が動くのは未だ未だ、先だと思う。
「これが……粗壁……」
千香良は近くで見てある呆然としている。
竹小舞の下地は左官施工法の本に書いてあった。
けれども実物は初めて見る。
所々、粗壁が崩れていて見るも無惨だ。
どうやら村岡は粗壁を見せるために千香良を同道させたみたいだ。
「若も念願の古民家再生ですか」
「前の会社でも何軒かは手掛けたらしいが……個人の建設屋では面倒くさい上に金にもならないだろ」
(若?若林さん?若井君?)
前の現場で鷹見も名前を口にしていた。
縁がある建築家みたいだ。
確か榊は ‘先輩’ と言っていた。
けれども千香良は気になることがあったとしても踏み込んで聞けない性格だ。
三上に対してもそうだ。
家庭の事情や乙葵の曰く、なんて聞こうとも思わない。
それに千香良も昨日の事件は内緒にしている。
お互いに楽しくない話は極力しない。
龍太にだって、同じ対応。
話を選ぶ。
どうしても嫌われたくない心理が働いてしまうみたいだ。
そう考えると、千香良が遠慮なしで物が言えるのは高城だけになってしまう。
けれども千香良は浮かんだ事実が気に入らない。
眉根が歪む。
それにしても、この現場は一体、どこから手を付けるのだろうか……
千香良は心配してしまう。
「少し傾いでいて、かなり立て付けも悪いらしいから半解体するらしい。それで今日はどの程度まで生かせるか見て欲しいそうだ。上大園さんも意見を聞かせてくれ」
「古民家のリノベーションか……」
千香良はポッソリ呟いた。
そしてまた高城。
高城の家は昭和レトロのリノベーションだった。
何かが繫がりそうで繫がらない。
「千香ちゃん、小舞の編み方をよく見ておいて。多分、1枚は全部やり直しだ」
上大園が千香良に声をかけてきた。
「そんな……私が編むんですか?どうやって編んであるかなんて見ても分りません」
そう言いながらも千香良は仕事をしている時間が一番楽しい。




