巧みで愚かな 5
「本当は『フェンディ』が欲しいけど18歳だから『サマンサタバサ』とか『テファニー』はまだ早いから『エテ』で我慢とか……そんな感じ?私は『サマンサタバサ』と『エテ』が良いの。駄目なの、それじゃ……それともT大は無理だからM私大とか……今日だってマックで良かったって……私が妥協して真君と付き合っているって言いたいの」
逆鱗の在りかは本人ですら分らない。
それでも、信じられないぐらい舌が回る。
千香良は一気に捲し立てた。
確かに龍太には憧れる。
理想の彼氏像に近い。
なんたって見目がゾロ似で性格が欠点のないルフィときている。
要するに長身でマッチョの上に強面のイケ面で、明るくて、面白くて、優しくて、真面目で、女心が分かって、仕事が出来て……完璧になのだ。
だからといって恋愛対象には出来ない。
……?
(出来ない?)
「わかったから……謝るよ。だけど、千香ちゃんって実際、俺のことどう思っているの?」
「どう思うって……こんな所で言える、訳ないでしょ」
火に油を注いだよう。
千香良の興奮は冷めやらず。
すんでの所でカウンターを叩くのを堪えた。
正直、面倒くさい。
それでも、適当に遣り過ごすわけにもいかない。
問題が再燃する恐れは大だ。
なんのためのケンカなのかだけは、はっきりさせたい。
「うん……そうだね」
三上は取り敢えずは外にと思ったらしい。
残りのポテトを口に詰め込んでいる。
すると千香良も負けず詰め込み始めた。
痴話喧嘩はこんな所が面白い。
そしてカウンターの中ではアルバイトの女の子が1人、傍聴中。
いつから聞いていたのだろうか……
わざとらしい。
スパイダーマンのフィギアを拭いている。
「千香ちゃん怒ると怖いね」
三上がポツリと呟いた。
アルバイトの女の子もいつの間にかいない。
「別に、初めて怒ったから知らない」
千香良の返事は素っ気ない。
興奮を収める時間が欲しい。
如何せん、本人が1番驚いている。
それでも三上には十分過ぎる回答だった。
好きでもない相手に本気で怒る娘はいない。
「本当に御免なさい」
三上が改めて千香良に詫びてきた。
「申し訳ありませんでした」
無視する千香良に三上は言葉を代えてもう一度。
千香良は店内を見渡す。
「もう怒ってないから……でも車の中で話しをしようよ」
そして別々に会計。
外に出ると生暖かい夜風に夏を感じる。
千香良は気持ちも緩んでしまう。
「送らせてくれるよね」
千香良は笑顔で頷く。
三上との仲直りはもう確定だろう。
それでも千香良は自問自答せざるを得ない。
(出来ない?出来ないって……初めから諦めるって意味?)
助手席に乗り込む間際。
巧みで愚かな乙心に唇を噛みしめていた。




