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ガテン系の女 愛より、恋より、修業中  作者: うらら桜子(旧 咲良ヤヨイ)
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甘くてやるせない 5

 

 


 使えなかったモルタルは産業廃棄物として処理するしかない。

 大きな現場には大抵、産業廃棄物用のボックスが用意してある。

 千香良は作ったモルタルが少なくて助かったと思う。

それでも折角練った材料を無駄にするのは忍びない。


 高城はスーツの上着を脱ぐとYシャツを腕まくり。

 片付けを手伝ってくれている。

 ‘馬’のような大きな道具は動かすのに結構な力がいるので有り難い。


「大きな物は龍太が後から来て持って帰るだろうから……千香ちゃんの道具だけ俺に車にトランクに入れて」

 

 千香良は頷く。

 そしてモルタルの付いた道具を空のバケツに収めていく。

 粛々と単純な動作をしていると気持ちも落ち着いてくる。


「彼氏が出来たんだって……」


 千香良は俯いたまま何も答えない。

 場を和ませるつまりだろう。

 けれども高城までが知っているなんて……

 建設現場の繋がりに驚くよりも呆れる。


「大人のキスも未だなのに……エッチなんてしてないもん」


 大きな独り言だ。

 千香良の頭に先程の男が言った文言が再生される。

 意味は不明でもニュアンスで分かる。

 したこともない三上とセックスの話を揶揄(やゆ)したのだ。

 

 千香良から不安や恐怖は消えている。

 鬱憤(うっぷん)が声に出たのだろう。

 

「千香ちゃん……龍太に叱られたんじゃないの……」


 千香良の独り言は嫌でも聞こえた。

 耳にした高城が問いかける。


「違うもん……『長良グループ』の男の人に気持ち悪いこと言われて……それで壁ドンされたんだもん……」


 言いのける千香良はケロッとしている。

 過ぎたことに心を傷めない。

 千香良の強みだ。


「千香ちゃん……それで、もう平気なの?」 


「今は腹が立っている」


 仏頂面の千香良だが高城には寧ろ可愛く映ったようだ。

 目尻に皺を寄せて見ている。


「なら良いけれど……千香ちゃんは隙がだらけで困るね~」


「隙だらけ?」


 千香良は子供の頃から警戒心が薄く、知らない人に付いていってしまう子供だった。

 人を善と見る性格。

 疑う習慣が未だに身につかない

 

【道と思えば穴と思え】


【人を見れば泥棒と思え】

 

 兄は子供の頃から小難しい諺を唱えている。

 アクシデントに見舞われる度に思いだす。

 けれども直ぐに忘れてしまう。


「彼氏が出来たなら尚更でしょう……あの『長良』のお姉さんを見習わないと駄目だよ」


 高城は呆れた口調で千香良を諭す。

 そして肩を抱いて愛車へ連れて行く。

 言行相反も甚だしい。

 

 しかし高城の指摘は的を得ている。

 千香良は隙のある女の特徴を全て兼ね揃えていた。

 

 のんびり屋で甘えん坊で世間知らずの天然。

 その上に自立心が稀薄ときている。

 そして手抜きの薄化粧で頬紅も掃かなければ、アイメークもしない。

 その結果、白磁の肌に長い睫が陰を落として淋しげな顔に見える。

 

「家に送るか『ムラオカ』に送るか、どっちにする?」


 高城がトランクにバケツを積みながら聞いてきた。

 トランクには何かを積んだ形跡がなく、千香良は慎んで(つつしんで)しまう。


「会社で技能試験の練習しながら皆が帰ってくるのを待っている……」


「OK」


 高城は手を翳すとトランクのドアが閉まる。


 高城が運転席に廻ると、千香良も助手席に乗り込んだ。


「龍兄にラインをしておく」


 運転席で高城が頷いた。


 車内は代らず良い香りがしている。

 音楽は古いJーPOP。


 千香良も知っている曲だ。

 違うタイプの人を好きなるらしい。


【遅くなりそうだから時間になったら帰れよ】


 龍太からの返信。

 高城がチラリと千香良を伺う。


「で、彼氏と大人のキスがどうしたって……」


 高城は如何なる状況でもデリカシーが皆無の人だった。

 千香良の顔が一瞬で赤い。


「言ったまんま」


 千香良は頬をこれでもかと膨らますと窓の外にずっと見ていた。

 高城も深くは追求してこない。

 高速を使えば畜産試験場から『プラスター工房ムラオカ』は20分程。

 

 流れてくる音楽はどれも少女趣味で小っ恥ずかしい。


「着いたよ」


『プラスター工房ムラオカの駐車場には千香良の愛車が1台だけ。

 親方も外出したようだ。

 それでも奥には家族の住んでいる。

 千香良1人でも問題無い。


「ありがとうございました」


 千香良は丁寧にお辞儀をした。

 気恥ずかしさも20分もあれば消える。

 礼を言うのは当たり前だ。


 すると高城が顔を上げた千香良の顎に指を掛けた。

 そして、あろう事かそのまま体を引き寄せられる。

 

 千香良は驚く間もない。

 唇が高城に唇で塞がれた。

 

 気が付いた時には口腔で高城の下が蠢いて千香良の舌を絡め取り弄ぶ。

 頭が芯から溶けていき、千香良は初めての快楽に抗う術がない。

 下着がしとどと濡れて、腰がムズムズと動いてしまいそうだ。


 千香良には初めて経験。

 甘くてやるせない。

 

 そして千香良は高城に腕に項垂れていく。


 けれでも、そこには障害物。

 ギアが邪魔だ。

 

 千香良の不自然な体勢に当然、高城の唇が離れていく。


「これが大人のキスだよ」


 高城は莞爾(かんじ)するとハンドルに手を戻す。

 我に返った千香良はスーツの袖から覗く高城に手首を思いっきり噛みついた。

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