重くて刹那的 4
リビングは仄暖かく静かに千香良を迎えてくれた。
まだ頬が少し火照っている。
千香良は掃き出し窓から庭を見た。
5月に入ってから秋に切り戻したマーガレットが急激に花を咲かせている。
いつだって太陽次第。
気紛れで咲く花だ。
千香良はマーガレットから態々そっぽ向ける。
何だか面白くない。
そして、いつもの様にソファに寝転んだ。
(きっと三上はソファに寝転んだりしないんだろうな……)
千香良は指先で唇に触れて思う。
別れ間際のキスの余韻は呆気なく消えている。
ファーストキスの感想は……
想像と何か違う。
確かに少し緊張した。
唇も開けられない程に……
未開封の菓子袋を開けた感じ。
もう新品は誰にも渡せない。
仰向けの千香良はスマホを掲げて美々にラインを打っている。
【今日、やっぱりバーベキューに行ってきた。三上君に告白されて、付き合うことになった】
簡潔な文章でスタンプもなし。
後悔はしていないが先行きが不安だ。
彼氏が出来たらもっとウキウキして浮かれるものだと思っていた。
そして深い溜息。
【良かったね。三上君って乙葵さん弟で医者の卵の人だよね】
確かに。
喜ばしい事だ。
容姿端麗、学力優秀、品行方正、温厚篤実……
申し分ない彼氏……
千香良は指を組むと背伸びをしてみる。
堅くなっていた体を解さねば。
それでだからこそ何か安堵できない。
【彼氏が出来た】
千香良は思い立ったようには亜紀にラインを送る。
わざわざ伝える相手ではないとも思う。
しかし、どうしても恋愛熟練者の言葉が欲しい。
【長く続くと良いね、私が1番長く続いたのは最初の旦那で3年だった】
千香良は吹き出す。
やっぱり亜紀は良い。
正解だった。
何事も軽く受け流して終わり。
今度はきっと頑な唇もこじ開けられる。
恋愛とは期待と不安がごっちゃ混ぜだ。
そして千香良はゆっくりと状態を起こすと、尻をずらしてソファに座り直す。
気が付けば汗とニンニクの匂いが染みついて臭い。
何はともあれシャワーを浴びてさっぱりしよう。
庭のマーガレットも今は可愛らし。
母が帰って来るま勉強をする。
ゴールデンウィーク中に読破して、過去問題に取り掛かる予定だ。
それと平行して実技試験の練習もしなくてはならない。
段差が付いた土間を漆喰を塗って仕上げる課題だ。
左官組合の講習にも参加する。
デートに誘われても当分は行けそうもない……
医大生と左官見習い。
漫画みたいなカップルだ。
けれどもロマンチックには程遠。
千香良は小首を捻りながら風呂場に向かった。




