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ガテン系の女 愛より、恋より、修業中  作者: うらら桜子(旧 咲良ヤヨイ)
65/140

可愛くて強か 5




『赤煉瓦』は名の通り外観がレンガ造りの洋食店だ。

 けれども正しく言えばレンガタイル張りの……となる。


 客席は4人掛け8席と6人掛け4席。

 ゴブラン織りの椅子とウォールナットのテーブルは昔ながらの洋食店の雰囲気を醸し出している。 

 その中でもコーナーに位置している座席はベンチシートになるので好む客が多い。


 営業時間はAM11時から~PM2時30分とPM5時30分~PM9時。

 定休日は水曜。


 厨房は父と兄。

 それに調理師専門学校に通うアルバイトが1人。

 バイトが来る日は基本的に兄が休む。

 けれどもパートが休むとホール要因で駆り出されている。

 

 そしてホールは通常は3人体制で回す。

 乙葵の他に昼のパートが4人と大学生のアルバイトが3人でシフトを組んでいる。

 ただ乙葵だけは週5日勤務。

 AM11時30分~PM8時30分を昼休憩2時間の契約で働いていてくれている。


 ゴールデンウィーク初日は生憎の雨だったが、次に日からは概ね(おおむね)晴れ。

 『赤煉瓦』は毎日、盛況だ。

 

 特にランチタイムは行列が出来る程で連日てんてこ舞い。

 けれども千香良は不要。

 昼の忙しい最中では返って足手まといになる、と兄が言うのだ。

 

 それに比べてディナーは予約が殆ど。

 昼に比べてゆったりしたサーブで回せる。

 よって、千香良でも役に立つらしい。

 

 昼は母が、夜は乙葵がリーダーとしてホールを任されている。


 千香良が乙葵と一緒に働いたのは今の所、2日だけ。

 それでも、その働ぶりに圧倒されっぱなしだ。


 客に呼ばれる前に気配で動く。


 どんな職業にもプロが存在する。

 千香良は母が兄の嫁にと騒いだ気持ちが理解できた。

 母は同じプロとして乙葵の技量を見抜いていたのかも知れない。

 

 そして今日は5月2日。

 榊と美々は予約時間の5分前に『赤煉瓦』にやって来た。


「いらっしゃいませ榊様」 


 来店客を席に案内するのは母の役割だ。

 澄ました顔をしているが美々を吟味しているに違いない。


 千香良は続いてメニューと水を運ぶ。


「いらっしゃいませ」


「久しぶりだね」


「うん……」


 千香良は少しはにかんでしまう。


 ラインでの遣り取りはしていたが、美々の会うのは半年ぶりになる。

 千香良はメークをしている美々を初めて見た。

 衣装もボウタイの付いた黒のブラウスに、思いっ切りスリットの入った白のロングタイト。

 中々、色っぽい。

 それでもスポーツウーマンの溌剌さは相変わらずだった。

 

 そして、榊はYシャツにトラウサーズ。

 ビジネスマンのクールビズっぽい。

 

 援助交際と間違われそうだ。

 

 榊が頼んだのは『赤煉瓦』の代名詞と言われているビーフシチュー。

 ほろっと崩れるほど柔らかく煮込まれた牛肉と特製ソースは絶品だ。

 

 美々は女の子に1番人気の海老フライ。

 有頭海老は父が市場で仕入れている。

 食感はぷりぷり。

 それを風味豊かなオーロラソースで頂くとたまらない。

 

 勿論、どちらもライスかパンとスープ付が付いてくる。

 

 それにプラス、シェフの気紛れサラダを頼んでくれた。

 本日は春野菜と筍。

 ドレッシングに少し柚子胡椒が入っている。


 料理は全て千香良が運んだ。

 榊も美々も感嘆の声を上げて喜んでくれた。


 特に有頭海老フライは金の縁取りのボーンチャイナに乗ってくるので豪華に見える。

 

 けれども千香良は他の客の手前、一言二言しか話せない。


『話題のアニメ映画を見てからデパートに寄ってきたの』

 

『楽しかったでしょう』


 唯一、話せたのは、それぐらいだ。


 そして榊と美々の食事が終わると乙葵が皿を下げてきた。

 

「千香ちゃんの友達、可愛いね」

  

 配膳カウンターに下げた皿を置きながら乙葵が感想を述べる。 


「うん、陸上選手だったから脚がカモシカだよ」


 千香良は食洗機が洗い上げた皿を拭くのに忙しい。

 ただ、頭に浮かんだ言葉を口にだす。


 すると入れ違いに、食後のデザートを兄が持って行くではないか。

 父もサービスとは味な真似をする。


 千香良は振り返り様子を伺う。

 兄が何やら話しをしている。

 遠目で見ても楽しそうだ。


「千香ちゃんの友達の名前が千登世のドールと同じだって」


 一緒に皿を拭きながら乙葵が聞いてきた。

 情報通だ。


「うん、でも……何で乙葵さん知っているの?」


「相葉千登世は中学の頃からドールオタクだけど、あの頃は隠していたんだよね。だ、け、ど、誰も私を欺けない。何てネ」


「仲が良かったんですか?」


「違う、違う……たま、たま興味本位でドールショップに入ったら、遭遇したの……私って何故か分からないけど人の秘密を見ちゃうの」


「何故か?ですか……」


 千香良は妙な感じだ。


「うん。真司のも……そう……弟のも知っているの」


 乙葵は千香良の耳元で三上の秘め事を囁いた。

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