可愛くて強か 3
偶然も過ぎると超自然。
驚きすぎると返って反応が出来ないようだ。
「千香ちゃんのゴールデンウィークの休みは?」
すると取って付けたように母が話題を変更。
「そうだ、何連休だ?」
兄も話しに乗ってくる。
流石に千香良の友達と自分のドールの名前が一緒ではバツが悪いようだ。
「9連休かな……」
そして話題はゴールデンウィークへと代わっていった。
『赤煉瓦』は通常道理に営業。
千香良は暇なら手伝いように言われる。
父と兄は明日のランチメニューの話をしだす。
平和な光景だ。
けれども兄が帰ると母は豹変。
興奮を隠しきれない。
「千香ちゃん、ゴールデンウィーク中に美々さんを家に、ご招待してね」
しして千香良は往生した父にまで手刀で拝まれた。
4月は色々有り過ぎた。
龍太の過去に兄の嗜好と……
千香良は毎度、思考回路がショート寸前。
濃密な日々の連続だった。
けれども今日、明日を乗り切れば9連休。
ゴールデンウィークが始まる。
千香良は老人ホームの現場に追われて、すっかり忘れていた。
そして今日も老人ホームに来ている。。
鷹見と養生の片付けだ。
昨日までとは打って変わって時間の流れが優しい。
「千香ちゃんにゴールデンウィークはデートか?」
鷹見が養生テープを剥がしながら聞いてきた。
千香良はセクハラなんて野暮なことは言わない。
然れども千香良には是と言って予定がない。
龍太は仕事の間柄だけ。
三上はここ暫く音沙汰亡し。
誰も誘ってくれない。
「多分『赤煉瓦』の手伝いかな……」
千香良も養生テープを剥がしながら答える。
「なんだ……淋しいな~じゃあ、綺麗なお姉さんは休みか?」
次に鷹見は養生シートを剥がしながら。
「乙葵さんは休まないよ。ゴールデンウィ書入れ時書入れ時だもん」
そして千香良は剥がした養生シートを丁寧に畳みながら。
会話をしていた……
「お疲れさま」
すると榊が出現。
千香良は手を止めた。
また、また偶然?
それとも必然?
昨晩、千香良は美々を誘う口実を考えあぐねていた。
‘ご招待’ なんて大袈裟過ぎる。
けれども軽く誘うには美々の家は遠い。
確か通っていた女子校を挟んで反対方向のはずで2時間は掛かると思う。
「こんにちは、相葉さん。美々から聞いたよ。僕のリリアンの写真を見てくれたんだよね」
「はい……あの……お兄ちゃんでした」
千香良は緊張して前のめりに返答をしてしまう。
「やっぱり、そうだよね。そっくりだよね」
「なんだ、千香ちゃんは榊君とも知り合いか……」
鷹見が割って入ってきた。
「ええ、妹の同級生に成るのかな……」
「それなら、千香ちゃん家の洋食屋も知っているな、美味いだろ」
「いや~評判は聞いていますが、まだ1度も……」
「なら、ゴールデンウィーク中に是非、来て下さい」
千香良は思わず榊を誘ってしまった。
上擦った声に自分でも焦る。
成り行きとはいえ唐突だろう。
けれども『赤煉瓦』には、わざわざ遠方から来る客もいる。
「ええ、是非、妹と行きます」
榊は丁寧に笑顔を作ると快く応えてくれた。
大人の対応だ。
これで母に文句を言われない。
兄も榊が一緒なら寧ろ喜ぶだろう。
【ゴールデンウィークに兄さんが『赤煉瓦』に連れて行ってくれって】
その日の夜には美々からライン。
榊の言葉は社交辞令ではなさそうだ。
続いて送信されてきた、豚のような熊が喜び駆けるスタンプ、から美々の気持ちが伝わってきた。
(楽しみにならまぁ、良いか……)
役目を果たした千香良は取り敢えず安堵した。




