可愛くて強か 2
確かに母の心配も分かる。
名前を付けて人形を抱く息子は痛い。
そして母は常々、若いお婆ちゃんに成りたいと言っている。
「今は結婚なんてしなくても時代だ」
兄がそっぽ向いて開き直る。
千香良は意外だ。
けれども幾つに成っても子供は子供。
「それでも人間の彼女ぐらい連れてきて欲しいわ」
母は相場家で唯一、口で兄に勝てる存在だ。
そして父は黙って聞いているだけ。
千香良も同じく、口を挟まない。
それよりも風呂に入って、ご飯が食べたい、と思っている。
「俺の彼女になりたい女は多いよ。でもドールを理解出来ないなら無理だな」
「そんな娘はいないわよ。お兄ちゃんは結局、モテない男なのよ」
売り言葉に買い言葉。
舌戦に拍車が掛かる。
千香良のお腹から「グルグル」と音が鳴る。
すると父が力に頷く。
察してくれたらしい。
千香良は静かに部屋から出て行った。
そして風呂から上がるとニンニクの良い匂い。
ダイニングテーブルには餃子。
兄が無人販売所で手土産に買ってきた。
それに冷凍してあった春巻き。
サラダはキッウリとトマトを酢と胡麻油で和えた中華風。
箸休めにはザーサイとメンマ。
都合良く冷蔵庫に入っていた。
「お兄ちゃんが餃子を焼いてくれたのよ」
母が嬉しそうに話す。
ひとまず休戦できだようだ。
皆で餃子に箸を伸ばす。
相場家の力関係は決まっている。
父は力に甘、甘で千香良は兄を苦手とし、兄は母に敵わない。
そして母は父に従順となる。
問題が生じると、父が一言苦言を呈する。
それで終了がいつものパターンだ。
「ところで千香良はどうしてリリアンの写真を持っていたんだ」
兄は餃子でビールの合間に聞いてきた。
「友達のお兄さんのだよ。お兄ちゃんこそ何で名前を知っているの」
リリアンは榊のドールの名前だ。
美々曰く、1番のお気に入りらしい。
「ヘンリーの店で紹介してもらったんだ。リリアンのオーナーの妹と友達か、凄いな。でも……リリアンは少し排他的で色気がありすぎるよな……」
「榊さんも知っているよ」
やはり榊が行きつけの店で見掛けたのは兄だったのだ。
「そうか……榊さんのリリアンは抽選だったんだ。俺がお迎えしたかったな~」
それでも兄はドールに話を持っていく。
「でも、お母さんを事故で亡くしたばかりだから……榊さんが当選で正解だよ」
「そうか……知らなかったな……」
兄が気の毒そうに呟いた。
「それはご苦労ね……」
当然、母も聞いていた。
そして話に合いの手を入れてくれる。
「うん……美々も進学を諦めて工務店の事務をしている」
千香良は美々の事情とドールの写真に至るまでの経緯を聞いてもらった。
「美々が理解しているのに、私がお兄ちゃんをキモがるなんて出来ないじゃん」
本当は千香良も少し引いている。
けれどもドール自体は可愛いと思う。
「その子は可愛いの?性格は良さそうね」
母か食いついた。
「うん、陸上部だったから颯爽とした感じで……」
千香良はふと兄のドールを思い出す。
「ところでお兄ちゃんのお人形さんには名前は有るのか?」
珍しく父が話に加わってきた。
「……美々だよ」
兄は口籠もるように答えるが……
千香良は全身に鳥肌がたった。




