可愛くて強か
『赤煉瓦』は基本、水曜が休み。
朝食の時にゆっくと新聞を読む父がいた。
だからといって千香良の生活は代わらない。
仕事をしている。
そして千香良が兄にラインを送ってから10日が過ぎていた。
1日、2日は気にしていたが、兄の既読スルーはいつものこと。
寧ろ千香良は安堵している。
気分を害していたら長文で文句が送られて来ただろう。
けれども連日の忙しさに千香良はヘトヘト。
兄のことなどに感けては居られない。
それ程に親方のペースで仕事を熟すのは至難の業。
つくづく龍太の優しさを思い知る。
土、日も平日に出来なかった3級左官技能士試験の勉強をしていた。
三上と美々からラインにも【疲れて死にそう……】のメッセージの後にSORRYと嘆く熊のスタンプで終了。
女子校時代のグループラインと違って、誰もラインに振り回されない。
千香良は大人の付き合いと感じる。
それでも、今日こそは千香良からラインを送るつもりだ。
老人ホームの現場がやっと終わった……
そして千香良が自宅に戻ると駐車場に兄の車が停まっていた。
生意気にもクーペに乗っている。
ドライビングテクニックにも自信があるらしい。
千香良は急に落ち着かない。
玄関から直接、リビングに行くべきか……
一旦、自室の籠もるか……
悩むところだ。
けれども、それも束の間、兄が玄関まで迎えに出てきた。
「千香良、忙しかったんだって」
「うん」
千香良は安全靴を脱ぎながら上目遣いで兄を見る。
滅多にない上機嫌だ。
「今日はドールも一緒だから」
兄が嬉々と言う。
千香良は腰をかがめたまま停止。
固まってしまう。
「千香良も会いたいだろ」
「うん、楽しみ」
千香良は我ながら上手い言葉を返せたと思う。
けれども廊下を歩きながら饒舌に語る兄には辟易している。
千香良もドールに興味があると思っているようだ。
「ママには見せたの?」
千香良は両親が知っているか婉曲に聞いてみた。
「母さんは興味が無いんだ……寧ろ昔から嫌がっている。だから千香良が味方で兄ちゃん嬉しいよ」
千香良は初めて兄の淋しげ顔を見る。
母に厭まれているなんて知らなかった……
兄も辛いだろう。
そしてリビングに入るとソファに1体のドールが鎮座。
榊のコレクションとは違い利発な感じがする。
衣装も白い襟が付いた紺のワンピースで日常的な感じだ。
普通に可愛い。
「千香ちゃん、お帰りなさい。ねぇ、お兄ちゃんの人形、どう思う」
今度は母が千香良にすり寄ってきた。
「良いんじゃない」
「そう……でもお嫁さんには出来ないわよ」
千香良は返す言葉が見つからなかった。




