慎重で大胆 5
千香良は今日も村岡と老人ホームの現場に来ていた。
高級老人ホームで交通の便は悪いが兎に角、敷地面積が広い。
予定では自然と一体化した庭が出来上がる。
千香良は午前中から漆喰を攪拌し続けている。
老人ホームの壁を漆喰にすると高齢者施設独特の匂いがしないそうだ。
それと平行して村岡の手元も千香良に仕事だ。
千香良まだ手が遅く納期を考えると戦力としては使えない。
如何せん部屋数は30室。
しかも工程表が押している。
親方が出張る、とはそうゆうことだ。
そして午後の小休憩。
村岡は監督と飽きもせずに喫茶店。
千香良は現場事務所の机に顎杖をついて微睡でいる。
美々とのラインが深夜に及んで寝不足だ。
今日は榊の姿は見ていない。
榊が行きつけの店で見掛けた人物が千香良の兄かどうかは、未だ不明。
けれども千香良は兄だと思う。
榊は千香良と兄の両方を見ている。
血縁の類似と他人の空似の区別くらいは出来るだろう。
「お兄ちゃんがドール……」
微睡みから帰還した千香良は思いだして、ほくそ笑む。
昨晩のラインで美々からドールマニアについて色々と教えてもらった。
1番有名なのは日本ではリカちゃん、アメリカではバービー。
でも、この辺りは普通に子供のお友達。
そして一頃、大人の間で流行ったのがブライズドール。
芸能人で集めている人もいるようだが、日本で出回っているのはレプリカらしい。
思い返せば千香良だってリカちゃんは持っていた。
今でも家にどこかに在るはずだ。
【私の兄はフィギアから入っているからまた違うんだ】
美々は兄の趣味に理解があるようで沢山写真を持っていた。
千香良は腿のポケットからスマホを取り出し添付されたドールの写真を開いた。
改めて見ると確かに美しい。
(紫に瞳のアンニュイな視線か……それと小さな唇が少し開いているか……特にこの人形が良いな)
「そうだ!」
千香良は面白いことを考えついてしまった。
でも慎重に考えろ。
それでも千香良は美々から添付された写真の数々を兄に転送した。
そして舌先で唇を嘗めさする。
兄に悪戯なんて初めてだ。
この時間なら休憩しているだろう。
胸がドキドキする。
千香良の勤務時間はあと少し。
頑張ったらお楽しみが待っている。
でも少し大胆な行動だったかも……
後悔は先に立たず。
兄の怒る顔が過ぎった。




