素直で容易
制服を着用出来ないとなると着ていく服が分からない。
千香良はクローゼットを開き思案中だ。
母は普段道理で良いと言った。
それなら、パーカーにスキニージーンズしか思いつかない。
お気に入りのスカートは流石に短過ぎるし、フレアーやボーイフレンドのデニムはだらしなく見えそうだ。
千香良は散々迷って挙げ句、白のパーカーと黒スキニーに決めた。
パーカーの背中には大きくロゴがプリントされているがしょうがない。
面接は乗り気がしない。
それでも見た目にだけは気になる。
そんな、お年頃だ。
それに引き換え、母もいつもと代らない。
夜会巻きの髪もメイクもいつも道理。
衣装は白のシャツに黒のアンクルパンツ。
唯一違うのが羽織り物。
ダウンベストではなくツイードのジャケットを羽織っていた。
そして、母の運転するK自動車で駅とは反対方向に20分程。
隣県と隣接しているが景観に代わりは無い。
それでも地価は随分と違うと思われる。
考えられないぐらいに敷地は広い。
300坪はありそうだ。
当然、車を止めるスペースも広い。
トラックが3台、Kバスが2台が駐車されている。
それでも、かなりのスペースが空いていた。
これなら千香良も安心だ。
母の難在り駐車テクニックでも問題無いだろう。
そして片隅では男が3人。
皆、お揃いのジャンバー着ている。
(叔父さん、叔父さん、お爺さん……)
千香良は年の頃を見当してみる。
何か機械を洗っているようで、ホースから出ている水が冷たそうだ。
車から降りた千香良は、その光景に母が「先方は大掃除だから」と言っていたことを思い出す。
そして母に目をやると小柄で小太り、な男にペコペコ頭を下げている。
(あの人が社長かな……?)
千香良は遠巻きに様子を伺う。
男は1人だけポロシャツ姿で寒そうだ。
小さく足踏みをしている。
すると男は千香良の視線に気が付いたようで会釈をしてくれた。
優しそうな叔父さんだ。
男は千香良の方に体を向き直り手招きしている。
千香良は笑顔を向けると駆け寄った。
単純、素直が千香良の本質だ。
「こんにちは。相葉千香良です」
「村岡です。よろしく」
千香良は差し出された手を条件反射で握り返す。
無垢な者にとっては握手とはそうゆうものだ。
それに村岡には人の心を開かせる大らかがある。
千香良は、少しぐらいなら働いてもよいと思ってしまう。
「じゃ事務所で……」
先を行く村岡に従い、千香良は母と連れ立って後を行く。
事務所は2階建て。
外壁は黒のガルバニユウに、デザインとして表の玄関部分を杉の羽目板と漆喰で仕上てある。
モダンな外観だ。
千香良は事務所の外観がいたく気に入った。
益々、働いてもよいと思いだす。
「どうぞ」
母が屋内に入っても千香良は暫く建物を観察していた。
面白いのだ。
そんな千香良を村岡が扉を開けて待っている。
すると、その隙間から男が出てきた。
オリーブの坊主頭が目に留まる。
視線が鋭い強面だ。
身長は180センチを超えているだろう。
千香良が他人を見上げるなんて滅多にない。
正しくガテン系の男だ。
ポロシャツ姿でも筋骨隆々の体躯が分かる。
(超怖い……)
千香良はすくんで立ち往生。
男は千香良の前で立ち止まったのだ。
そればかりか千香良の足元に視線を落とすと、さらに頭上まで這わしていった。
「女か……カッコイイな……ワハッ、ハッ、ハッ」
そして男はいきなり千香良の肩を引き寄せると、豪快に笑い出した。