真面目で不器用 4
龍太の話は現場到着と同時に終わった。
『気にしてくれるなよ』
エンジンを止めた龍太の言葉だ。
『そんなの……全然』
千香良は笑顔で答えたつもりだ。
けれども、頬が引き攣っていたと思う。
つくづく馬鹿だ。
他人の詮索と噂話は悪しき行為なのでしない。
理由は解らない。
両親から言い聞かされてきた。
それだけだ。
そして、龍太の話を聞いて、両親の言いつけを心から理解した。
「千香良は住宅は初めてだろ」
指示を出す龍太はいつもと代らない。
「はい。よろしくお願いします」
千香良も努めて普段道理。
ペコリと頭を下げる。
「じゃ、養生からだな」
千香良は本当に野丁場しか知らない。
養生は初めての作業だ。
大きな現場では元請けの現場監がしてくれているらしい。
そして住宅の仕事は町場。
野丁場と違い設主が個人だ。
より一層、丁寧な仕事を要求される。
雑な養生などもっての外。
大きなクレームに繋がりかねない。
「先ずは、台車でボードを運んで来てくれ。その間に俺は段取りを組み立てるわ……昨日、見に来られなかったからな~」
龍太は千香良に指示を出すと、人差し指で頭を掻きながら、ぼやく。
「はい」
千香良は返事をすると玄関に。
龍太が独りブツブツと、まだ何か口にするのが聞こえる。
多分、段取りのシミュレートだろう。
千香良は薄く笑みを浮かべた。
(集中、集中……仕事、仕事……)
「養生、養生……初めての養生……」
心で唱えていた言葉が声になる。
そして千香良は可笑しな歌を歌い出す。
漸く龍太の話が腹の中で消化し始めた。
現場の個人宅は大掛かりなリノベーションをしたらしく、家具類が見当たらない。
しかし床が杉の無垢材で傷や跡、シミも付きやすいので厄介だ。
千香良は龍太を手伝って床にクッション性の高い養生シートを置いていく。
馬を置いた痕が残ってしまったり、鏝を落として付く傷は取り返しがつかない。
そして養生シートを部屋の端まで敷き詰めると4、今度は養生テープで確り止める。
勿論、養生シート同士もズレないように養生テープで貼り付け済みだ。
その上のビニールシート。
床の他に、キッチンカウンターや窓、汚れて困るところは養生が必要だ。
千香良は初めての作業に手が遅い。
結局、ダイニングキッチンの養生は午前中いっぱい掛かった。
そして小休憩は早めの昼休憩でチャラ。
千香良は両手の指を組んで大きく背伸びをしている。
龍太は外に出掛けた。
最近は、Kバスでも食べずに、千香良と一緒に食べるのに……
気まずいのかも知れない。
そして必ず千香良の弁当を褒める。
因みに今日の弁当は照り焼きチキンにカリフラワー、ニンジン、スナップエンドウの茹で野菜。
ご飯は筍ご飯だ。
千香良は閑散とした広い部屋で、膝を伸ばして弁当を頬張る。
今日も美味しく頂くつもりだ。
けれども、ふと箸がと止まってしまう。
龍太の話しは衝撃的で18歳の腹では消化出来ないようだ。
『俺、高校2年の時に少年鑑別所に入っているから……』
理由は喧嘩。
少年法に不起訴処分ない。
傷害罪に問われたそうだ。




