真面目で不器用 3
いつの間にか4月も中旬。
花水木がやたら目につく。
けれども千香良は毎日、それどころではない。
軽自動車の運転席に前のめりに座り、ハンドルをきつく握りしめている。
兎のエンブレムの愛車はクリーム色。
龍太はイメージに合っていると言ってくれた。
見かけと違い千香良が少女趣味なのをよく分かっている。
納車されたのは運転免許を取得して一週間後。
偶然にも正式に『プラスター工房ムラオカ』の社員になった日だった。
次建設国保保険証と雇用保険被保険者資格取得等確認通知書を手渡されて、千香良も紛う事なき社会人。
誇らしくて顔が綻んでしまった。
そして、次の日から力は自分で運転して『プラスター工房ムラオカ』に通っている。
けれども、今だに40分も掛かってしまう。
本来なら20程度の道程なのに不甲斐ない。
「今日も無事に来たな」
龍太は千香良が『プラスター工房ムラオカ』に到着すると必ず言ってくる。
挨拶代わりと言ったところだ。
千香良は龍太に何を言われてもニコニコ笑う。
信頼関係が出来ている証拠だろう。
会社のKバスは今の所は、まだ龍太がしている。
千香良には、まだ、まだ、無理そうだ。
現場到着か何時になるやら分からない。
「『赤煉瓦』に美女が入ったって鷹見さんが騒いでいたけど、本当か?」
現場に向かう道すがら運転席の龍太が聞いてきた。
鷹見が家族を連れて『赤煉瓦』に来たことは千香良も知っている。
「うん、乙葵さん。友達のお姉さんで、帰国子女なんだ」
「美人で才女か凄いな」
龍太は思ったままを口にする。
「うぅ~ん……どうだろう?お兄ちゃんは相変わらず馬鹿だって言うけど……」
千香良は首を傾げて言葉を濁す。
乙葵と話をしたことがないので、本当のところは分からない。
「相変わらず、って……お兄ちゃんも知り合いか?」
龍太が確認してきた。
千香良はいつも言葉が足りない。
「うん、中学の同級生なんだって。お兄ちゃんがクラス委員長で乙葵さんはギャル。漫画みたい」
千香良は乙女らしく、それなりに兄と乙葵の関係を楽しんでいる。
「偶然もそこまで重なると本当に漫画みたいだな。運命に再会って、か」
龍太も思うことは同じらしい。
面白がっている。
「お母さんがお嫁さんに……って盛り上がっちゃって、お父さんと諦めさせるのに苦労したんだ」
「何で?良いじゃないか」
無責任に賛同するのは他人にだからだ。
乙葵は「赤煉瓦」の常連客に評判がいい。
大らかで気が利いている。
そして、何より美しい。
確かに母は父に釘を刺されたらしく嫁云々の話はしなくなった。
けれども、今度は常連客が兄を冷やかし初めている。
「お兄ちゃんには無理だよ、男として見られてないもん。そうだ……乙葵さんには龍太さんが合うよ」
話の流れとは恐ろしい。
「俺は……遠慮しとくわ。女運が悪いからな。そうだな……亜紀さんも言われているから、千香良には千香良には話しておくか……」
千香良は龍太の話を静かに聞いた。




