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ガテン系の女 愛より、恋より、修業中  作者: うらら桜子(旧 咲良ヤヨイ)
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努力家で欲が無い 5

 



 診察室のスツールに座った千香良は医師の横顔を凝視してしまう。

 医師はレントゲンを見ていて気が付かない。


 鶏は3歩、歩けば忘れる。

 千香良も同じだ。

 先程、亜紀から聞いた話は頭に、もう無い。


 中学時代から三上は印象の薄い顔をしていた。

 一昨日会ったばかりだが漠然とし記憶しか残っていない。

 それでも目の前の医師と同じ顔だと、個体識別出来るから不思議。


 同じ顔の親子は無条件で微笑ましい。

 千香良は血縁の妙技(みょうぎ)に笑顔を向ける。

 

 それでも三上との血縁関係は聞けない。

 初対面の大人相手では無遠慮が過ぎる。

 

「膝蓋骨は綺麗だな。打ち身っていうのは血管が傷ついたり潰れたりして起こる症状だから、動かし過ぎると痛くなる。安静にしていた方が良いね」


 千香良は医師に話に頷く。

 しかし仕事を休む程とは思えない。


「私、左官なんですけど仕事はしても大丈夫ですか?」


「問題無いよ。でも、今日みたいな事に成らないように親方さんと相談して」


「はい」


 取り敢えず診察の結果は、ただの打ち身。

 後は会計を待つだけだが、僅かな時間もスマホを出してしまうのが今時の()だ。

 

 すると亜紀からのラインが3件。

 

【高城さんはよく知らないから、分からない。でも、どうしても気になるのなら本人に聞くのが筋かも……】


【それと、千香ちゃん、彼氏いるの?私、知らない、って答えといたから】


 続いて、怪しげなウサギが「イエ~イ」と踊るスタンプ。


 千香良は既読。

 ペンギンが頷くスタンプを送信。


 人の過去を詮索するのは悪趣味だと植え付けられている。

 龍太への疑問は自動的に沈殿されていくだろう。


 それに、千香良は何かに付けて気持ちが薄い。

 生まれ持った性格なのだが、千香良自身は頭が悪いからだと思っている。


 原田の事は、もう忘れている。

 未遂なので騒ぐこともないし、心の傷にもなっていない。

 車から飛び降りる必要があっただろうか……とさえ思っている。


 そして、数分。

 名前を呼ばれて受付に。

 診察の自費料金は10,560円。

 出された処方箋は近くの調剤薬局に保健証を持って行けばいいと言われた。


 千香良は昼休憩前に現場に戻れた。


 龍太は館内の壁を仕上げている最中だった。

 手際よく、かつ(むら)が無い。

 千香良は暫く見とれてしまう。


「早かったな」


 背後からの視線に気が付いたらしい。

 龍太が手を止めて振り向いた。


「10,560円でした」


 先ずは釣り銭を渡す。


「で?」

 

 龍太は財布を取り出し、金を仕舞った。

 伏した瞳に憂いを帯びている。

 龍太にしては珍しい。


「ただの打ち身でした。けど……仕事内容は親方と相談するように言われました」


「じゃ、出来ることは出来るな。午後からは膝に負担が掛からないところだけ詰めとけ」


「ラジャーです」


 千香良は敬礼して戯けてみせる。

 これ以上心配を掛けたくない。


(地層壁?異物混入?珪藻土……不純物、ホルムアルデビド吸着分解……)


 少しずつ覚えた知識が頭を巡る。

 千香良は決して馬鹿では無い。

 左官仕事に関する知識は1度、聞いたら覚えてしまう。

 職人達も驚くほどだ。


『千香良は努力家で熱心だ。代わらないでくれよ』


 千香良に事あるごとに龍太に言われる。


『ごめん。理由は言えない。でも、現場に出ていたら、その内、耳名入るから』


(地層壁?異物混入?珪藻土……不純物、ホルムアルデヒド吸着分解……)


 千香良は再び浮上してきた亜紀の話を消していく。

 本当は龍太の過去が気になっていた……


 

 

 


読んで下さってありがとうございます。

前半が終了しました。

まだまだ続きます。


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