努力家で欲が無い 4
三上整形外科の外観は石張り調のサイディンの壁に、明り取りのガラスブロックパネル。
よく見掛ける病院という感じだ。
千香良は先ず受付で保険証が無いことを告げた。
すると受付の女性が、今日は自費診療になるが、保健証の提示で後日戻るから心配ない、と丁寧に教えてくれた。
千香良は整形外科には初めて来たが、内科や歯医者よりも混んでいるように思う。
「待ちますか?」
率直な不安を口にする。
「大丈夫ですよ、人は多いですけどリハビリの方が殆どですから」
千香良は受付の女性の言葉に改めて院内を見渡してみる。
確かに名前を呼ばれた人達は皆、リハビリ室に入って行く。
「相葉さん」
20分程は待たされて、漸く名前を呼ばれた。
「こんにちは、屈伸しすぎて膝が痛い……」
ゴマ塩の頭の医師が問診票を読み上げながらデスクトップのキーを叩いている。
年齢は父と同じぐらいだろう。
「ズボン……捲れないな……」
ドクターチェアーを回転させた医師が溢す。
視線は千香良の膝元にある。
千香良は一瞬、ズボンを脱ぐのか、と内心狼狽える。
しかし、それよりも面を上げた医師の顔に驚いた。
凜々しい眉に視線が張り付く。
(三上君と同じ顔だ……)
龍太のスマホで病院名を見たときに可能性は考えた。
それでも、まさかの展開だ。
「じゃあ、しようがないか……」
医師の言葉に看護師が頷いた。
「こちらに横になって下さい」
千香良は偶然に騒ぐ心を抑えながら診察台に横になる。
「これ痛い?」
医師は千香良の脚を手に取ると膝を曲げ伸ばしする。
「少し」
そして次は膝を押す。
「痛い」
「痛いけど……」
「そうだね、多分、打ち身だけだと思うけど念の為にレントゲン撮るから……レントゲン室で短パンに着替えてもらって」
着替えが用意されている整形は珍しい。
「着替えあるんですか……」
「ええ、先生が困るんで……」
「すいません……」
千香良は看護師に言葉に頭を下げる。
問診、触診、レントゲン。
整形外科ではお決まりに手順だ。
レントゲンが現像されるまで千香良は待合室でスマホを弄っていた。
医師が三上に父親と思うと口元が綻ぶ。
偶然としては出来すぎていて運命を感じてしまう。
女子が恋に落ちる要因の一つだ。
するとラインが届いた。
亜紀からだ。
【龍太と何かあった?千香良の男は誰だ、って聞かれたけど】
千香良は長文と断り一昨日からの経緯を送った。
【それって、何よりもヤバイ展開だよ】
ラインでの行間は読める。
本当にヤバそうだ。
【どうして】
千香良は当然、気になる。
【ごめん。理由は言えない。でも、現場に出ていたら、その内、耳名入るから】
千香良は、顔面が半分暗いペンギンのスタンプ、を送信。
背後に「ガーン」と文字が入っている。
益々、気になる情報だろう。
【亜紀さんは高城さん知っている?】
【龍太の従兄弟でしょ】
【高城さんなら教えてくれるかな……】
「相葉さん」
名前が呼ばれる。
千香良はラインを一旦諦めると、再び診察室に入って行った。
医師の顔を見れば、また気持ちが移ろいでいく。
千香良は未だ、未だ切実を知らない。




