努力家で欲が無い 3
龍太は千香良を気遣いゆっくりと歩きだした。
それでも苛々が見て取れる。
背中で語るのは男気だけにしてほしい。
千香良は内心、狼狽ながらついて行く。
休日に高城と一緒に居たところで龍太にとやかく言われる筋合いはない。
しかし千香良には違う疚しさがある。
そして、辿り着いた現場事務所に人影はなし。
工程表を見る限り、今日の午前中は左官仕事だけだ。
「カフェオーレだな……座っとけ。」
龍太は自販機の前で千香良に聞いてきた。
いつもは千香良が龍太にお金を貰って買ってくる。
師弟関係ではよく見る光景だ。
今日は特別らしい。
青丹の原因を打明けるには勇気がいる。
千香良は唇を強く結んで、窓の外に目を向けた。
広場には、桜の若木。
幹は細く花も少ない。
それでも、今が満開のようだ。
「はいよ」
千香良の前に紙コップが置かれる。
そして前に座る龍太は缶コーヒーの無糖ブラック。
「近くに整形外科が在るから、それを飲んだら行ってこい」
龍太がスマホの画面を見せてきた。
「三上整形外科?」
千香良は、まさか、と思う。
出来過ぎている。
「自費になるだろから……」
龍太は腿のポケットから財布を取り出すと3万円を抜き出した。
「でも……もう痛くないよ」
千香良は病院には行きたくない。
両親に知られてしまう。
「念の為だ皿にひびでも入っていたらどうする」
(高城さんは大丈夫って……)
千香良は思うことは口にせず黙って俯いた。
高城の名前は出さない方が賢明だ。
「敦君は医者じゃないから。それに、敦君なら、症状が悪化したら病院に行くように言っているはずだ」
龍太はエスパーか?
その通り、高城に言われていた。
窘められた千香良は頷くしかない。
「大体、どうして敦さんが出てくる?」
千香良は又しても墓穴を掘ったように思われる。
龍太は問い質す機会を待っていたようだ。
「近くで転んだ……からかな……」
龍太は脚を組み直すと、千香良に懐疑的な目を向けた。
「土曜日に何があった……男か?」
龍太の目力には敵わない。
千香良は観念して口を割った……
そして、話を聞き終えた龍太は瞑目している。
怒りを鎮めているようだ。
「病院に……」
千香良はゆっくりと椅子を引きつつ、龍太の顔色を伺った。
少し休んだら膝に痛みは無くなった。
ただの打ち身に違いない。
けれども場の雰囲気に絶えられない。
「行ってこい。現場の納期はまだ先だから、Pコンの穴詰めは戻ってきてから、ゆっくりやれ」
依然、龍太は仏頂面だ。
かといって、千香良に、ご立腹でもなさそうだ。
「はい。行ってきます」
三上整形外科は直ぐそこに在る。
龍太の見せたくれたルートアプリでは300メートル先。
歩いて5分も掛からない。
「千香良……結果が酷かったらタクシー呼んで帰れよ」
「はい」
「あぁ……それと金が足りなかったら電話してこい」
「はい」
千香良は後ろめたさに逃げるように病院に向かった。




