努力家で欲が無い 2
話は料理に出来映えから、自動車学校の進み具合、左官の仕事と尽きなかった。
ワインは白と赤の両方とも空。
父もお陰でいつもよりも饒舌で珍しく競輪選手時代を聞かせてくれた。
そして一旦、母が片付けに席を立ち、次いでに珈琲を入れに行く。
18本の蝋燭が立てられたホールケーキは既にスタンバイOK。
中央にぎっしり苺が載っている。
珈琲と一緒に母が戻ると千香良が炎を吹き消した。
両親からのプレゼントは免許が取れてから。
中古のK自動車を買って貰える。
兄は車の鍵に付けるキーホルダー。
意地悪な反面、気前はいい。
塩化ビニールのワンちゃんは、何円だろうか……
大奮発だ。
昨日は嫌な思いをした。
けれども、誕生日を祝ってくれる家族が居る。
千香良はこれからも頑張ろうと思えた。
仮免試験は木曜日なので月、火、水、と現場に出る予定だ。
龍太に連れてこられた新しい現場はミュージアム。
外トイレだとKバスの中で説明された。
「千香良は1人で出来るな」
ミュージアムだけあってトイレもコンクリートの打ちっぱなし。
千香良は1日、Pコンの穴詰めをする。
「はい」
返事はすれども怯んでしまう。
結構な大きさだ。
「馬に上乗って上から詰めていって……どうだ、午前中に一面は出来るな」
「はい」
脊髄反射で答えたしまった。
「それじゃあ俺は中で仕事しているから」
龍太は千香良にK自動車の鍵を放ると背中を向けた。
材料を持ってきて自分で全て段取れということだ。
千香良は先に馬と船を運び、次にセメント1袋。
鏝と鏝板は舟の中に入れてきた。
トイレなので水に不自由しないのが有難い。
そしてカーゴパンツのポケットからメモを取り出し配分の確認をする。
天候、気温によって乾く速度が違う。
千香良は練ったモルタルを鏝板に乗せると馬に足を掛けた。
馬に上での作業も、もう慣れている。
しかし問題か発覚。
膝が痛い。
それでも千香良は任された仕事を進めていった。
上がって降りて移動して、又上がって……
痛みを我慢しながらの作業では進みが遅い。
「休憩いくぞ」
そして3時間。
龍太が午前の小休憩に呼びに来た。
千香良は恐る恐る馬から降りる。
膝の痛みのせいで、まだ3分の1も残っている。
「ちゃんと面より少しだけ凹ませているな」
龍太は打ちっぱなしの近くに寄って出来映えをチェックしている。
進捗の遅れを指摘する気ないようだ。
「まあね」
千香良は調子づく。
膝の痛は隠していたい。
「よし。綺麗に出来出るな。コーヒーを奢ってやる」
隆太は千香良を褒めると現場事務所に歩き出した。
けれども千香良は膝が痛くて、ついて行けない。
それどころか距離がどんどん離れていく。
すると龍太が遠ざかる千香良の気配に脚を止めた。
千香良は膝の痛を庇ってか蟹股で歩いている。
「足、どうかしたのか」
龍太は不格好な千香良を笑わない。
それよりも心配そうだ。
「転んで膝が青丹に成っている」
「転んで膝に青丹、って……大丈夫か?」
頷いた千香良はアヒル口でしょんぼりしてしまう。
痛いといっても、たかが打ち身で大袈裟だった。
「膝がプヨプヨしていなければ大丈夫って、高城さんが言っていたから……」
龍太の眉間に皺が寄る。
千香良は自分の不用意さに掌で口を覆った。
両親は騙せても……
龍太は騙せない。




