正直で狡い 5
千香良も三上も余りの美味しさに夢中で麺を啜った。
その間に千香良は「美味しいね」と2回、三上は「美味い」と1回、口にした、だけで無言。
元、同級生とは不思議だ。
一瞬で、気兼ねなく飯を食える関係になれる。
そして、スープも残さず食べ終わると、直ぐに席を立つ。
日曜日とあって客足は遅い。
まだまだ客は待っているはずだ。
千香良は三上が、ラーメン屋で長居するような人種じゃなくて良かった、と思う。
「ご馳走様」
三上は発言道理奢ってくれた。
「どういたしまして」
18歳の男子が18歳の女子の誕生日祝にラーメンを奢る行為。
三上の少しおどけた口調は照れ隠しに聞こえる。
千香良は三上の誕生日にお礼をしようと思う。
男子にプレゼントなんて考えるだけでも楽しそうだ。
「本当に美味かったな。で、午後からはどうする?」
自動車学校への帰り道で三上に聞かれる。
千香良はPM4時までには家に帰りたい。
『唐式』を出たのがPM1時半過ぎ。
自動車学校に着いてPM2時……
「もう1枚だけ過去問してから帰ろうかな……今日はお父さんが夕食を作ってくれるんだ」
「へーお父さん、料理するんだ」
「うん。お父さんシェフだから」
「そうか……相葉の家は洋食屋だったな。だったら、どうして相葉は料理人じゃなくて左官?」
千香良は自分が料理人になるという発想を持ったことがない。
そもそも料理が苦手だ。
「私、魚も肉も生は極力触りたくない」
「じゅあ、刺身嫌いなんだ……」
「お刺身は好きだよ」
「何だそれ……」
三上は肩を揺らして哄笑している。
「それで相葉の家は何が美味い?」
「海老フライとハンバーグとビーフシチューと……何でも美味しいよ」
「高い?」
「少し高いのかな……でも大学生ぐらいのカップルも多いみたい」
「彼女か……じゃあ、相葉の友達、紹介してもらおうかな。学校辞めても付き合いぐらいあるだろ」
三上から思いがけない発言が飛び出した。
卒業生の春休みは長い。
学業からも部活動からも解放される。
必然的に暇を持て余す。
恋人を作るのに待ってこいに時間だろう。
「……」
冗談なのか本気なのか……
千香良は口籠もる。
それどころか足取りも重くなり三上の歩調に合わせられない。
三上は横を歩いていたはずの千香良が遅れた様子に振り返る。
「ごめん。私……友達いないんだ。学校辞めてから暫くはラインとか来ていて、カラオケとかも1回行って……でも、今年になってから音信不通で……ラインも連絡ないんだ」
千香良は立ち止まる三上に追いつくと説明しだす。
努めて明るい。
「悪い……交友関係にまで影響あったんだ……」
三上の方が辛そうだ。
「そんな顔しなくていいよ。新しい友達っていうかお姉さんみたいな人出来たし、現場、忙しいから。多分、普通に卒業していても合わなくなっていたと思うんだ」
「狡いな……」
三上が思わず口にした。
「……」
千香良は意味が分からない。
「正直って狡いな……」
「何?意味分かんない」
どうやら千香良の鈍感力は筋金入りのようだ。
自分の気持ちにも他人も気持ちにも疎い。




