浅くて拙い 4
千香良は相変わらずアルバイト意外の時間は家でゴロゴロとだらしない。
それでもヨガの真似事をやってみたり、30分程ランニングに出かけたり、と千香良なりに頑張っているつもりだ。
学校は冬休み。
それで昨日はカラオケに誘われた。
元クラスメイト達はそれぞれ進路が決まって悠々自適だ。
千香良も久しぶりのカラオケに気分転換が出来て楽しかった。
しかし好きな歌が同じでも、話には付いていけない。
学校で起った些細でクダラナイ事件も部外者ではノリに欠ける。
千香良は徐々に疎遠なっていく予感に死にたい気分だ。
高校卒業認定のオンライン授業の件は保留にしてある。
兄に難癖を付けられたので気が削がれた。
それに原田曰く、オンラインの授業を選択すると、引きこもりの可能性を疑われるらしい。
千香良は(なる程……)と納得した。
原田は優しい。
なんでも噛み砕くように説明してくれるのだ。
それに男臭くない。
千香良は告白されたら付き合っていいと思う。
けれども、それは馬鹿げた願望だ。
国立大学生と高校中退では釣り合わない。
それぐらいは千香良でも知っている。
今年のクリスマスイブは土曜日で、珍しく千香良も『赤煉瓦』に駆り出された。
猫の手も借りたかったらしい。
けれども千香良は洋食の給仕は苦手で嫌いだ。
『蘭々』のような街中華と違ってスマートさを要求される。
母も兄も皿を4枚同時に運ぶ。
先ずは左手。
親指と人差し指しか使わない。
次に2枚目は皿の縁に人差し指を添えて小指でバランスを取る。
3枚目は親指の付け根辺りに乗せ、腕、2枚目の皿の3点で支えるのだ。
そして最期の1枚は右手が引き受け運ばれていく。
千香良は左手と右手に1枚ずつ運ぶように言われる。
危なかっしいので仕方が無いが、不器用さに凹む。
後、3日で新年を迎える。
『赤煉瓦』も『蘭々』も次の日曜日まで休みだ。
「千香ちゃん、面接は明日でも、いいかしら」
ダイニングにいた母がスマホを片手に寄ってきた。
どうやら通話中のようだ。
千香良はソファで俯せに為りファッション雑誌を捲る手を止めた。
そして面倒くさげに母を見上げる。
何の話か分からない。
「誰が?」
母は千香良の反応に瞠目する。
そして相手に断りを入れて通話を止めた。
「貴方、左官職人になるっていったでしょうが……」
「知らない」
「先、先週にテレビを見ていた時にママが聞いたでしょう」
「う~ん……でも……左官って何?」
「こうゆう壁を塗る仕事よ。テレビ、見ていなかったの」
母はリビングの壁を示し説明するが、千香良は首を傾げている。
「とにかく面接だけはして頂戴。骨を折ってくれた人がいるんだから、ちゃんとして。朝の10時に決めるから。分かった」
母としては珍しく強引な物言いだ。
「うん、いいよ」
無責任なYESはNOより容易い。
それに家に居ても退屈だ。
千香良の考えの甘さは天下一品。
後は母に断ってくれると思っている。
それでも千香良は検索だけは、しておこうと思う。
スマホに『左官』と入力した。