正直で狡い 3
人が密集していた。
アクシデントも起る。
三上は千香良の体を咄嗟に受け止めただけだ。
それに龍太や高城に比べて三上は無臭で人畜無害。
千香良は何とも思っていない。
それなのに三上は千香良の体を離した後も直立不動で身構えている。
千香良は中断しまった話の続きが気になるのに、今度は違う意味で気まずい。
そこに黒Tシャツの店員が記名用紙を確認しにきた。
先程、帰って行ったのは三組。
名前を読み上げてはテーブルへ誘導していく。
小柄で可愛らしい娘だ。
後ろ姿の背中には『唐草』と店のロゴがプリントされている。
そして、また一組、席を立った。
目まぐるしい。
「次だね」
気まずい空気も活気に消された。
言葉が自然に口をつく。
「うん……」
それなのに三上の返事が素っ気ない。
見ると、どうやら先程の店員を目で追っているようだ。
変わり身が早い。
三上は偶然会った中学の同級生。
それ以外何者でもない。
けれども千香良は少し不満だ。
小柄で可愛い店員に嫉妬心を抱く。
自分でも、お門違いは分かっている。
「可愛い子だね」
千香良は自分の言葉に険を感じて嫌になる。
「そうかなぁ~相葉の方が美人だ」
三上の思いがけない台詞に千香良の耳が色づいていく。
頬も少し熱い。
千香良は返す言葉が見つからない。
三上は特に照れるわけでもなく普通にしている。
感性が豊かなだけで行動や言動に意味など無いようだ。
(お世辞でも嬉しい……って言おうかな)
けれども残念。
今度は店主らしき中年男性が記名用紙を確認しに来た。
「三上様」
野太い声に名前を呼ばれて、店内に。
待合の一画は間仕切りされていたので店の全貌は分からなかったが結構広い。
テーブルが6席、4人掛け2席と2人掛け4席。
カウンターには8人座っている。
そして、案内されたテーブルは4人掛け。
ラッキーだ。
「ここは煮干しラーメンだよね」
「何で分かった」
「匂いで分かるよ」
「流石だな」
水を持ってきたくれたのは先程の小柄で可愛い店員だったが、三上は特に浮かれていない。
千香良には分からない男心があるようだ。
そして三上は ‘ニボシ麺’ 千香良は ‘塩ニボシ麺’ を注文した。
「ねぇ……さっきの話……」
千香良は上手く聞き出せない。
「俺は妹から聞いただけだから……相手の後輩君は転校したらしよ」
三上は妹からのお願いを遂行しただけらしい。
考えてみれば男子が聞かされても困るだけの話だ。
「どちらにしても相葉さんが聞いて愉快な話じゃないよ」
「そうだね」
千香良も今更と思った。
「それより相葉さんは昨日が誕生日だったんじゃない……奢るよ」
思い掛けない申し出に、千香良は目をパチクリと見開いた。




