無邪気で屈託がない 4
天井には無数の水滴。
仄かに入浴剤の香りが漂う。
今日は柑橘系だ。
相葉家の風呂場は広い。
湯船もオーダーメイドで千香良は勿論、父でも十分、脚を伸ばして浸かれる。
年頃の娘が長風呂なのは致し方ない。
千香良の両親も諦めている。
ボディ磨きにヘアケア。
一日を振り返るのも1人になれる入浴時が多い。
楽しい一日なら思いだし笑い。
辛かったら誰に気兼ねなく泣くことだって出来る。
特に今日は予め《あらかじめ》、ゆっくり入ると決めていた。
母にも宣言してある。
告げておかないと、湯船で寝ているのでは……と、様子を見に来てしまうのだ。
それなのに今、千香良の頭の中は仮免試験。
湯に透ける膝小僧の痛みも、すっかり忘れているようだ。
千香良が物事を深刻に捉えられないのはいつものことだ。
高校を自主退学させられた時も然程、思い悩まなかった。
長所なのか短所なのか今の所分からない。
けれども悪い出来事ほど頭にしっかり刻まれる。
千香良の思考は教習車から高城の愛車と移り、別れ際の高城の忠告『男は狼』に思い至る。
(貞操の危機だったんだ)
千香良はやっと事の重大さを感じ出す。
急に膝小僧が痛い。
千香良は伸ばした脚を引き寄せて両腕で抱えた。
そして膝小僧にコツリと顎をのせみる。
騒ぎ立てるような痛みではないが苦痛に感じる。
龍太には自分以外の人間の車に乗るなと常々言われている。
簡単に他人の車に乗るなんて、もっての外らしい。
千香良は、その忠告を今更ながら思いだす。
それに ‘ドライブデート’ でのアクシデントやトラブルはネットにも沢山のっていた。
千香良も警戒していたはずだ。
そもそも千香良は原田に恋をしていない。
にもかかわらず、恋人に……なんて、考え事態が間違っていたのだ。
軽い気持ちの持主は当然、軽いと思われる。
しかし、思春期なら異性に興味があるのが当たり前で、寧ろ、無い方が問題だろう。
それでも、闇雲の経験を積むのは頂けない。
千香良の額からジワリと汗が滲み出す。
長風呂も限界のようだ。
(恋をするのが先なのだ……)
のぼせだした脳髄知覚は緩慢で単純明快な答えくれる。
洗い場に出た千香良の薄桃色裸体は瑞々しく、水滴を弾いていた。




