無邪気で屈託がない 2
高城の言い間違えを茶化した千香良は肩を竦めてみせる。
少しリラックスしてきたようだ。
すると高城が徐に千香良の肩を抱き寄せ、髪を掻き混ぜじゃれてきた。
「この、お子様が生意気に」
高城から邪な気持ちは感じない。
あからさまに子供扱いされている。
それなのに千香良の方が高城の眼差しに大人の色香を感じてしまう。
つい先程、原田相手に嫌な思いをしたばかりなのに学習しない。
多感な年頃だ。
「お兄ちゃん準備出来た……」
襖を開けると廊下を挟んで続き間だ。
梓は子供じみた2人の様子に絶句。
間髪いれずに踵を返す。
「梓、待った、待った……」
高城は梓を引き止め、千香良を離す。
漸う解放された千香良は膨れっ面で髪を整える。
「あぁ~」
振り向いた梓は深い溜息。
高城の所業に呆れ返っているようだ。
「千香ちゃん、梓が膝の青丹、消してくれるから」
見ると梓は片手にバニティケースを下げている。
「私、美容部員だから……その膝では家の人も心配するでしょう。ファンデーションで消してストキング履いたら分からないから」
確かに千香良は怪我の理由に困っていた。
転んだ、としても酷すぎる。
ましてや母はデートだと、知っているのだ。
千香良が高城に視線を向けてみる。
「今日、一日だけ隠して、明日、転んだことすればいい」
高城のアイディアらしい。
千香良は少し考えてみる。
母に嘘をつくのは心苦しい。
けれども今日の怪我は、やはり不味い。
「お願いします」
千香良はペコリと頭を下げた。
「じゃあ、頼むな。俺は事務所にいるから、終わったら駅まで送って行く」
千香良は無言だ。
なぜか感謝の言葉が言えない。
高城の親切に慣れてきている。
「了解」
部屋を出ていく高城の背中に梓が一言。
「千香ちゃん、ごめんね。なんで男と思ったんだろう」
2人になると梓は千香良の膝に優しくファンデーションを馴染ませていく。
擦り傷は、もう乾いているが、それでも少し痛い。
「よく間違えられるから気にしていません」
「そうだよね、髪型もマニッシュだし」
梓は考えが口に出るタイプらしい。
「髪を伸ばしたりはしないの……」
プロの技術は手際よく、右の膝は傷はもう見えない。
「うん、母が短い方が似合うって言うから」
「へ~、子供の頃から短いの」
千香良は梓の問い掛けに答えられない。
いつの頃から短いかなんて、思い出せないのだ。
それでもツインテールの小さな自分を知っている。
大きいお兄ちゃんと手を繋いで家に帰った。
時折、思い出す。
けれども大きいお兄ちゃんが誰だか記憶にない。
「小さい頃にツインテールにしていたみたいだけど……」
「ツインテール?」
梓の手が止まる。
そして暫く無言で手を動かさない。
何か訝しげだ。
千香良は戸惑い小首をかしげ尋ねることが出来ない。
すると、そんな千香良の顔を梓が上目遣いで一瞥。
「なる程……」
梓は頷くと作業に戻った。




