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ガテン系の女 愛より、恋より、修業中  作者: うらら桜子(旧 咲良ヤヨイ)
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無邪気で屈託がない

 



 土間の左手が事務所。

 麻の葉が細工され組子の板戸は隙間から様子が窺え、畳に乗ったキャリーが見える。 

 多分、オフィスチェアーだろう。


 驚く梓よりも千香良は屋内に目が行って仕方がない。


「でも……」


 梓は千香良の姿を足元からチェックしていく。

 どう見ても女子のファッションだ。


「千香ちゃんは女の子だ。お前が美少年が『蘭々』でアルバイトしているって言うから、俺も男の子と間違えたんだぞ」


 高城は会う前から千香良を男子と思い込んでいたらしい。

 余所見する千香良の耳にも聞こえた。


「だから『蘭々』の店主が苦笑いしていたんだ」


 腕組みした梓は納得したように1人頷いている。


「でも……先輩情報で彼……あっ、彼女は高校生だって聞いたけど……兄さんは犯罪者か」


 梓が高城に肘鉄を食らわした。


「馬鹿。千香ちゃん、此奴(こいつ)の言うことは気にしないで、兎に角、上がって」


 上がり框から高城が手招きする。


「あっ、はい」


 高城に忠告されなくても千香良には梓の言うことが理解出来ない。


 それにしても上がり框は随分高い。

 

 千香良は沓脱ぎ石(くつぬぎいし)に脚を掛けるが膝の痛みに顔を顰める。


「大丈夫?」


 梓が心配そうに千香良を伺う。


「うん、平気」


 千香良は膝も痛いが艶やかに磨かれた廊下の方が気になる。

 飴色に変色して何とも言えない。

 

 廊下は直ぐに左に折れるが、その手前に見え扉がトイレだろう。

 扉の上の方がモザイクの磨りガラスだった。

 

 そして折れた廊下の左に障子。

 しかも、白黒のストライプに白、水玉、チェック……とモダンテイスト。


「私は自分の部屋にいるから……ごゆっくり」 


 梓は障子を開けると意味深な笑みを残して消えていく。

 チラリと黒い畳が見えた。


「全く……」


 高城は1人、ゴチる。


 そして一方のリビングダイニングに足を向けた。

 廊下との境目がない為か、広く見える。


「お茶を入れてくるから、どうぞ座って待っていて」


 千香良は薦められるままに椅子に座るが今更ながら畏まって(かしこまって)しまう。

 揃えられた民芸家具は高級感が半端ない。


 それに掃き出し窓から見える庭も、こぢんまりとしているが植栽と瓦で格子模様が造られていてイカしている。


「紅茶でよかったかな……」


 高城が左手にティーポット、左にマグカップ2個を持って千香良の横に座った。


(なぜ?横……)


 千香良は高城の様子を横目で伺う。


「原田くん……何をやらかしたの?」


 テーブルに置いたマグカップに紅茶を注ぎながら高城は千香良に直球を投げてきた。


「……」


「大方ホテルにでも連れ込もうとしたんだろう?で、千香ちゃんは逃げてきた……ってところかな。それにしても酷い怪我だけど……訴った」


 答えようもなく黙る千香良に高城が推測で言い当てる。

 

「車から飛び降りた……」

 

 千香良は最期まで言葉を聞かずに答える。

 

「えぇぇ」


 高城は驚愕の声を上げて体を仰け反らす。

 戯けた(おどけた)ポーズは深刻にならない為の計らいだ。


「だから原田さんの目的は不明……」


 千香良も口角を上げてポソリと加える。


 千香良は自分の気持ちや考えを口に出して説明できない。

 当たり前だ。

 人が心に思うことは複雑で曖昧で一貫性も無く、無常。

 言葉で表せるのはほんの一部に過ぎない。

 だから人間関係に誤解が生じ、時に違いが始まる。


「いずれにせよ千香ちゃんに、とって不本意な事態に陥らなくて良かった」


「うん」


「でも……原田君がね~」


 千香良は俯いて口を閉ざした。

 体はまだ硬い。


 すると旋毛(つむじ)に高城の掌。

 優しくて擽ったい(くすぐったい)

 けれども危険。


「千香ちゃん、お嫁に来るまで自分を大事に……」


 高城の動詞が何だか可笑しい。


「高城さん ‘行く’ までだよ」


 千香良はどこまでも無邪気で屈託がない。

  

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