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ガテン系の女 愛より、恋より、修業中  作者: うらら桜子(旧 咲良ヤヨイ)
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豪胆で気丈 5




「千香ちゃん?」

 

 固有名詞の末尾に疑問符。

 高城にとって千香良からの電話は予期せぬ出来事だっただろう。


「……」


 聞こえてきたのは低音ボイス。

 高城の男振りを脳が瞬時に描き出す。

 千香良は自分から男性に電話したのは初めて。

 軽くパニックに陥ってしまう。


「千香ちゃん?」


 それに、考えてみれば『蘭々』で数回会っただけの人だ。

 名刺をくれたからといって厚かましい。

 千香良は思いあまって受話器マークをタップ。


「あっ」  


 聞こえてくるのは通話が途絶えた音。


 しかし直ぐ(すぐ)さま着信。


 当然、架電者は高城。


 千香良は深呼吸をしてから応答をタップ。


「切れちゃったね……」


「今、近くに居るんですけど帰り方が分らなくて……」


 先走るように現状を伝える声は上擦っている。

 緊張と羞恥で挨拶などする余裕もない。

 

「……」


 高城の考えている様子が伝わってくる。

 それでも千香良は沈黙が怖い。


「迎えに行くけど……どこに居る?」


 千香良は再び深呼吸するとアプリに表示された住所とコンビニ名を伝える。


「歩いて10分ぐらいだから……少し待っていて」


 千香良は「はい」とだけ答えて通話を終えた。


 脈打つ心臓がリアルに痛い。

 千香良にとっては頗る(すこぶる)大胆な行動だ。


 人は後々考えても自分でも説明が付かない行動を取ることがある。

 ‘運命’ とはダイナミックな事象や出来事だろうか……

 寧ろ、それは些細な一瞬だと思う。


 空に浮かぶ雲がいつもより立体的に見える。

 天気予報は終日晴れ。


 そしてコンビニの外で待つこと10分。

 高城が到着。


「待った」

 

 黒のダウンベストにサンドベェージュのスウェット上下。

 いつものスーツ姿とは違う装い。

 ラフな高城は若々しい。

 

 千香良は照れくささに俯いて、首を横に振る。


「膝……どうしたの?」

 

 すると高城が眉根を寄せて聞いてきた。

 高城は俯く千香良に合せて視線を下げている。


 千香良の両膝は赤紫で痛々しい。

 嫌でも目に入ってしまう。

 それに加えて細かな裂傷に血が滲んでいる。

 言うまでもなく出来たばかりの傷。


「転んだ」 

 

 千香良は簡単な返事で済ます。

 本当のことなど言えない。


 すると高城の眼球が不審げに彷徨(さまよう)

 高城は原田から千香良を誘ってドライブに行くこと聞いていたのだ。


「酷いな……」

 

 かといって、言及するのも憚られ(はばかられ)、一言溢すのみ。


「ドジだから……」


 笑ってみせる千香良は気丈だ。


「取り敢えず、事務所においでよ。自宅兼だけど、今日は妹も居るから」


 頷いた千香良の選択肢は高城の後ろを着いていくしかない。


「『蘭々』は僕の子供の頃は、この辺りに在ったんだ。当時は高校生で、どこに移転したかなんて知らないから残念に思っていたよ。そしてら、妹の先輩が『蘭々』の近くに住んでいて……妹が、凄く美味し坦々麺の店を見つけた、って教えてくれて、行ってみたら『蘭々』だったんだ……美味しいよね」


 高城は共通の話題を持ち出し、千香良を振り返った。

 

 優しい物言いに、鈍感な千香良でも気遣われているのが分る。


 そして暫く歩くと長閑な景色に辿り着く。


「着いたよ」


 モザイクタイルの腰壁にカッイングの施された磨りガラスの引き戸。


(五月とメイの家……)

 

 千香良はワクワクを隠しきれずにキョロキョロしだす。

 災難に打ち拉がれた影もない。


 近隣はスーパーにレトロな喫茶店。

 それに建て売りらしき二階建てが数件。

  

 不思議な一角だ。

 引き戸を開けて中に入ると広い土間。

 

「梓、お客さん、連れてきたから」


 どうやら居住スペースのようだ。


「お帰りなさい……やだ!『蘭々』のイケメンじゃない」


 高城の妹はどこかで見た顔。

 千香良は小首を傾げる。


「私、連絡先、渡しました」


 千香良はゆっくりと首を楯に振った。

 

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