豪胆で気丈 2
車内のヒーターが効き過ぎているのか……
千香良は掌で頬を仰ぐ。
車列に合流した高城は無言で運転。
雨脚は強くワイパーが果敢に動く。
それでも『プラスター工房ムラオカ』付近まで来ると雨も小降りになっていた。
「ありがとうございました」
千香良はお礼の言葉で停車を促す。
何故か密室状態が耐えられない。
尻は既にドアの近くに移動済みだ。
高城に返事はなかったが、車は路肩に止った。
そして「カチッ」とロックが解除される。
「ほんとうに助かりました」
千香良はもう一度礼を述べるとシートベルトを外しにかかる。
すると高城が運転席から体を捻り千香良に名刺を差し出した。
千香良は上目遣いで高城を窺い見る。
「千香ちゃん困ったら連絡しておいで。話ぐらいは聞いてあげられるから」
千香良は名刺を手に取ると、活字を目で追う。
【株式会社 トランスワーク 代表取締役社長 高城 敦】
そして読み終わるとトートバックから財布を取り出し大事そうに、しまった。
千香良は初めて名刺をもらった。
歓喜に近い感情が湧き上がり声も出せない。
けれども高城はリアクションのない千香良に苦笑いを見せる。
そして車から降りた千香良は高城にペコリ。
雨はもう傘をさすほど降っていない。
高城は納得げに頷くと車を走らせ去って行く。
見送る千香良は5回点滅したテールランプに首を傾げた……
仮免試験は来週。
今週の実技予定は空いてしまった。
(現場の仕事はどうだろう……龍太さんと現場に出られると嬉しいな……)
千香良は『プラスター工房ムラオカ』までの短い距離を考えながら歩く。
すると「パフォン」とクラクション。
千香良は立ち止まり振り返る。
近づいてくるのは龍太のKバス。
千香良はKバスに大きく手を振った……
そしてKバスは千香良の横で停車。
乗り込むとラジオのDJの陽気なトーク。
トラブルは材料の発注ミス。
龍太はホームセンターに走ると現場に届けたそうだ。
それよりも千香良は高城との関係を聞いてみたいと思う。
「高城さん、従兄弟なの?」
「まぁな」
意外にも龍太の反応は素っ気ない。
「バイト先のお客さんだったんだ……」
千香良は言い訳めいた言葉で濁す。
代わりを頼んでおいて……合点がいかない。
「頼んだのは親方だから……」
差し向けたのは村岡らしい。
道理でだ……
千香良は少し反省。
両親から、他人の詮索と噂話はするものではない、と言われて育った。
それにしても従兄弟のくせにだ……
「名刺……もらったから……」
「そうか……なら、まぁ、いいか……」
意味深なニュアンスだ。
「何歳かな……」
けれども千香良は尋ねてしまう。
17歳の好奇心は、沸いたら最後、止められない。
龍太心の機微など読みとれないのだ。
「大体32歳ぐらいか……」
若く、見える。
龍太は「人づてに聞くところ」と前置きをした。
確かなことは知らないらしい。
従兄弟でも色々だ。
交流がない間柄もある。
それでも知っていることを教えてくれた。
高城敦は新進気鋭の建築家。
昨年、某大手メーカーを退社。
『プラスター工房ムラオカ』には会社設立の挨拶に来ていたらしい。
『蘭々』のお客さんだと切り出したのがよかったのかもしれない。
詮索が苦手な千香良の割には短時間でよく聞き出した。
そして『プラスター工房ムラオカ』に着くと、龍太は材料の積み込みに忙しない。
いつものことだ。
千香良は、仮免試験日を報告。
今週の予定を決めて帰りにバスに乗った。




